260 牙を剥く悪夢 ページ10
と、その時──雨宮の身体が大きく傾き、仰向けに倒れた。
やはり限界を超えていたのだろうか。一試合の中で化身を四度も──うち一度はドローイングによるものだったが──出したのだ。消耗は相当なものだろう。
駆け寄った天馬は、二言三言会話してから雨宮を助け起こす。
二人の間には、確固たる絆が生まれたように思えた。
両チームを称えるように、会場から惜しみない拍手が贈られる。
雷門のメンバーはもちろん、新雲の選手たちも、どこか清々しい顔をしていた。
私たちはしばらくそうして、試合の余韻に浸っていた。
──どさり、という音がフィールドからするまでは。
目を向けると、神童の身体が地面に伏せっているのが見えた。
転んだのではなかった。うつ伏せになって動かない。ぴくりとも。
自分の目に映るものが理解できなかった。
身体が稲妻に打たれでもしたかのように、指先すら動かせなかった。
三国さんや監督、音無先生が神童の元に駆け寄っていくのを、ただ見ていることしかできなかった。
周りの世界が遠くなっていく。耳の奥に、自分の血液が身体を巡る音だけがこだましている。
試合の興奮で高まっていた熱が急速に冷めていく感覚を、私は他人事のように味わっていた。
不意に目の前が真っ暗になる。
それはただの錯覚によるものだったが、今朝見た悪夢の全貌が、急に牙をむいて襲いかかってきたのだ。
夢の中で、私は神童と対峙していた。
そこにいるのはいつもの神童で、微笑みながらこちらに手を差し出していた。
私も笑い返して、その手を取ろうとした。
その瞬間、神童の手がひび割れた。
ガラス細工のように、神童の身体全身にヒビが入っていく。亀裂は足を、胸を、顔を覆った。神童は微笑んだままだった。
砕け散っていく神童の身体。待って、行かないで。そう叫んでいるつもりなのに、届かなかった。すぐ近くにいるはずなのに、触れられなかった。
そうして神童がいなくなってしまった。私はその場に崩れ落ち、声にならない叫びを上げた。夢の中では泣くこともうまくできなかった。
＊
それからのことは、断片的にしか覚えていない。
担架に乗せられる神童の身体。迫り来る救急車のサイレン、回転灯。そういった部分的なものだけが、いやに鮮明に私の記憶に張り付いた。
ようやく少し我に返ったのは、稲妻総合病院に着いたあと、神童が緊急手術を受けていると監督から知らされた時だった。
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キメラ(プロフ) - うさまる。さん» コメントありがとうございます！ 更新に波があって、お待たせしてしまって申し訳ないです💦 ゆっくりペースの連載になりますがこれからも見守ってもらえるとありがたいです！ (2022年10月22日 10時) (
レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
うさまる。(プロフ) - 更新ありがとうございます！この作品大好きなのでとても嬉しいです！無理せず更新頑張ってください！ (2022年10月22日 9時) (レス) @page33 id: b10d69f65a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年9月10日 9時
