275 駆け出す足 ページ25
当日は、からりとした晴天だった。カーテンを引きあけて、朝日を顔に浴びる。
──とうとうこの日が来た。
私の心は、ほどよい緊張感で満たされていた。
「いやあ、とうとうこの日だねえ……私は雷門が絶対優勝する方にずっと賭けてたんだけど、いざこうして本番を前にすると感慨深いものがあるってもんよ、一世一代の大勝負とは正にこのことかもね」
朝食を食べ、身支度をしている間、姉はずーっと話しかけてきていた。適当に相槌を打ちながらも、もしかしたら姉はわたしの緊張を解そうとしてくれているのかもしれないと思った。
「いよいよね。お母さんも、仕事がなかったら試合見に行けたんだけど……」
私と同じように慌ただしく身支度をしている母さんが、残念そうに言う。
父さんは……試合を見てくれる。『社員みんなでテレビで試合を見ることになってる』と、昨日メールで教えてくれた。『頑張ってな』という、父さんらしい素朴な励ましを添えて。
今頃他のメンバーの家でも、家族と同じような会話がされていると思うと、暖かな気持ちになれた。
すると、それまで喋り倒していた姉が不意に口を止め、嬉しそうに目を細める。
「Aね、自覚ないかもしんないけど、この数ヶ月ですごい変わったよ」
髪をとかしていた私の手が止まる。
変わった。その自覚は……自分の中に確かにあった。
「学校とか部活のこと色々喋ってくれるようになったし、サッカーにもバイオリンにも、自分でケジメをつけられた。あとは、そう……目が活き活きしてる。頑張ろう、なんとかしてやろうっていう気概が見えるよ」
過去の自分は、何からも逃げていた。長いものには巻かれていた方が痛い目を見ないと、諦めていた。
だけど色んな人と関わる中で、いつまでもそうしていてはいけないと思うようになった。その思いは私を、いい変化へ導いたようだった。
向き合わなければ何も変わらない。やってみなければ、まず努力してみなければ、前進しないまま。
「それは、皆のおかげだよ」
その『皆』には、もちろん姉も入っている。口には出して言わないけど。
＊
「じゃあ、行ってきます」
スニーカーに足を突っ込んで振り向くと、母さんと姉が笑って手を振っていた。
「行ってらっしゃい！ 気張ってきなよ！」
「頑張ってね」
家族からの応援を胸に抱いて玄関扉を開き、私は一歩を外へ踏み出した。
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キメラ(プロフ) - うさまる。さん» コメントありがとうございます！ 更新に波があって、お待たせしてしまって申し訳ないです💦 ゆっくりペースの連載になりますがこれからも見守ってもらえるとありがたいです！ (2022年10月22日 10時) (
レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
うさまる。(プロフ) - 更新ありがとうございます！この作品大好きなのでとても嬉しいです！無理せず更新頑張ってください！ (2022年10月22日 9時) (レス) @page33 id: b10d69f65a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年9月10日 9時
