273 伝えたい ページ23
決勝戦前日。私は神童の病室に訪れた。
この前と一つ違うのは、サイドボードには一対の松葉杖が立てかけられているということだった。院内を、ゆっくりだが松葉杖をついて歩けているようだ。
医師が言うには、思っていたよりも回復が早いらしい。想定していたより早くギプスが取れそうだということを聞いて、私は嬉しくなった。
「いよいよ明日だな」
そう言った神童の声色には、隠しきれない悔しさが滲んでいた。
ここまでずっと、皆と一緒に戦ってきたのだ。仕方がないからとそうそう割り切れるものでもない。
「……実はこの前、Aが帰ったのとほとんど入れ違いで天馬がここに来たんだ」
「天馬が？」
神童が頷く。
「『俺にはキャプテンはできません』ってな。だいぶ悩んでいたんだろう……でも俺は、天馬ならやり遂げてみせると信じていた。だから『お前ならできる』とだけ言ったんだ。だいぶ雑なアドバイスになってしまったんだけどな」
キャプテンという重責に思い悩み、上手くチームをコントロールすることができなかった天馬。
だけど、きっとその神童の一言に救われたのだろう。今ならそう思える。
「でもその言葉、きっと天馬に効いたんだと思う。ちょっとずつキャプテンらしい顔になってきてるし、連携も問題なくなった」
「そうか。ならよかった……あとは信じるだけだ」
ふと、神童の目が真剣なものに変わった。
その瞳が私を射抜く。神童は少し躊躇っていたようだったが、意を決したように表情を硬くした。
「A。本当にありがとう」
私は二の句が継げなくなった。
最近やけに人から感謝されることが多い。善行をしている自覚がない分、いざ感謝の言葉を貰うと面食らってしまう。
何のこと？ と問おうとしたが、神童の真剣な表情に押され、黙って先を促す。
「俺はずっと、Aのかけてくれた言葉に救われていた。Aからしたら何気なく発したことだったかもしれないけれど、それでも俺の心を奮い立たせてくれたんだ」
言葉。私は神童を勇気づけるために、何を言っただろう。毎日の会話に埋もれてしまって、すぐに思い出すことができない。
「サッカーも音楽も……俺が諦めずにここまでやってこれたのは、Aのおかげなんだ」
神童が上半身を少しだけ乗り出してきた。その真剣な眼差しに、ハッとする。
二人の間に、束の間の沈黙が生まれた。奇妙な浮遊感のような感覚が私を支配していた。
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キメラ(プロフ) - うさまる。さん» コメントありがとうございます！ 更新に波があって、お待たせしてしまって申し訳ないです💦 ゆっくりペースの連載になりますがこれからも見守ってもらえるとありがたいです！ (2022年10月22日 10時) (
レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
うさまる。(プロフ) - 更新ありがとうございます！この作品大好きなのでとても嬉しいです！無理せず更新頑張ってください！ (2022年10月22日 9時) (レス) @page33 id: b10d69f65a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年9月10日 9時
