271 一丸となって ページ21
それでも。
神童が今見せた涙は、思いの結晶なのだ。誰にも負けない、強い思いの。
火照った顔をそのままに、私は神童の瞳を真っ直ぐに見つめながら言った。
「神童の思いは、決勝戦のフィールドに持っていく。絶対に勝つから……勝って、自由なサッカーを取り戻す」
フィールドにはいられずとも、心が繋がっていればきっと──そう、なんとかなる。
神童はしばらく私の顔を見つめていたが、ただ一言、
「ありがとう、A」
そう言って笑った。
本当に、綺麗な笑顔だった。
＊
足早に病院を去りながら、暗くなりかけた空に浮かぶ一番星を見上げる。
……実を言うと、本当は少しだけ嬉しかったのだ。神童がああして感情をあらわにしてくれたことが。
神童だって──私もそうだけど──たった十四歳の、まだ子どもなのだ。何もかもを完璧にこなせるわけじゃない。完璧に取り繕えるわけじゃない。
私が神童の支えになれたのなら、それが一番嬉しい。
──とはいえ、抱きしめてしまったのはちょっと無かったことにしてしまいたいけれど。
決勝戦は目前に迫っている。絶対に勝って、優勝してみせる。
そうして決勝戦が終わったら……自分の気持ちを神童に伝えるんだ。
自分の中で決意を固めると、胸の中に爽やかな風が入ってきたような、清々しい気持ちになれた。
満月にほど近い丸い月が、東の空にぽっかりと浮かんでいた。
＊
翌日から徐々にチームがまとまり始めた。
指揮のコツを掴んだのだろう、天馬の指示も少しずつ的確になっている。
チームの皆も、天馬を支えてくれているのがわかる。決勝戦という一つの目標に向かって、ばらけかけていた雷門イレブンは元の活気を取り戻していた。
「結構上手くいってんじゃねえか！ やってればキャプテンらしくなるもんだな」
水鳥が満足気に頷く横で、茜は相変わらずあちこちに向けてシャッターを切っている。
私はぼんやりとフィールドの様子を眺めていた。汗を流しながら練習に励む天馬を見ていたら、不意に入学式での出来事が思い出された。
剣城との一対一での戦い。黒の騎士団との試合。辞めていったメンバーたち。もう駄目だと何度も思ったのに、今はこうして決勝戦に向けて備えている。
「どうしたんですか？ Aさん」
葵が私の様子を不思議に思って尋ねてくる。
私は目線をフィールドに向けたまま、ぽつりと呟いた。
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キメラ(プロフ) - うさまる。さん» コメントありがとうございます！ 更新に波があって、お待たせしてしまって申し訳ないです💦 ゆっくりペースの連載になりますがこれからも見守ってもらえるとありがたいです！ (2022年10月22日 10時) (
レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
うさまる。(プロフ) - 更新ありがとうございます！この作品大好きなのでとても嬉しいです！無理せず更新頑張ってください！ (2022年10月22日 9時) (レス) @page33 id: b10d69f65a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年9月10日 9時
