52 目指すべきもの ページ2
「でも気づいたの──私は神童にはなれないって」
この妬みは、私の独善的な思いでしかなかった。
一人で勝手に思い悩んで、勝手に爪を噛んで。そうすることで生まれるのは、さらなる負の感情でしかないのに。
「僻みとかそういうの以前に、サッカーって楽しいものだってわかって……だからさっきみたいに、なんのしがらみもなくプレーできて嬉しかった」
そこまで言って振り向く。神童は数歩後ろで足を止めていた。
「って、ごめん。なんか意味わかんないこと言ったよね──」
「俺も、嬉しかった」
端正な顔が綻ぶ。
「Aと一緒にボールを追いかけていた時間が、ずっと続けばいいと思ったんだ。誰にも何も指図されない、全力のプレーが──サッカーのあるべき姿なんだろうな」
言葉は一旦そこで切られ、神童の表情が引き締まったものになる。
なにか大きな決意をするような、そんな。
「本気のサッカーがしたい……そう思いつつ、俺にとってもみんなにとっても、最善の方法がわからなかった。キャプテンとしてどうすればいいのか、迷いがあったんだ」
どちらの側の言い分もわかるからこそ、結論が出せない。
あちらを立てればこちらが立たず──そんな言葉があるように。
「でも迷ってばかりじゃ何も変わらない。変えられない──俺は、フィフスセクターと戦う」
「……決めたんだね」
「ああ」
夕陽を受ける神童の顔に、躊躇いの色はない。
「なら私も全力でサポートする。本当のサッカーを取り戻せるように」
真正面から見つめ、そう返す。
たかだかマネージャー1人にできることは微力だ。だが無力ではない。
自分にできることを全力でやる。そうすれば後悔は残らないはずだ。
＊
そうして迎えた万能坂戦、当日。
「なんだい、この雰囲気はよ」
「これで本当に、試合できるの……？」
水鳥と空野さんが不安げに呟く。
車田さんをはじめとした、天城さん、倉間、速水、浜野は依然としてフィフスに従う意志を示した。
サッカーをする機会まで奪われたくはない──と。
「俺は、雷門サッカー部のみんなと本当のサッカーがしたいんです！ だから……フィフスセクターと戦います！」
「僕もやります！」
天馬と信助の言葉を受け、神童と三国さんも頷く。
そして。
「ったく、仕方ないな……神童、付き合ってやるよ」
「霧野……！」
霧野も反乱の意思を固めたようだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
