315 記憶の書き換え ページ8
なんでもよかったのだ、音楽以外なら。
今思うと、なんともぞんざいなきっかけだったと思う。例えばもし、ここで見たものがテニスだったりしたら、私はきっとテニスをやっていたはずだ。
始まりは薄っぺらい。憧れも矜恃も何もない。だけどこの瞬間がなければ、あの革命の日々に加わることはなかった。
その瞬間。
フィールドにいた子供たちが──消えた。
子供たちの輪郭が黄色い光に包まれたと思ったら、光の粒子になってさらさらと虚空に掻き消えた。
およそ物理法則を無視した光景に息を呑み、隣を見ると……アルファが例の機械で何やら操作をしているところだった。
幼い私は、誰もいないフィールドの横を通り過ぎていく。誰もいないのだから、わざわざ目を向ける理由もない。その姿が曲がり角の向こうへ消える。
……まさか、過去に干渉したっていうのか。そんな勝手なことを、平然と。
怒りが頂点に達する。堪えきれなくなって、アルファに掴みかかろうとした瞬間。
「──っ、？！」
私は頭を抱えてその場にうずくまった。視界がぐるりと回り、コンクリートの地面しか見えなくなる。
──頭が割れるように痛い。内側からハンマーのようなものでひたすらに殴られているような感覚。心臓が脈打つ度に、痛みは激しく主張を増していく。
革命、化身、ホーリーロード、フィフスセクター。様々な単語の輪郭があやふやになっていく。記憶をバラバラに切り刻まれていく感覚に、吐き気がした。
サッカーが、消えていく。
サッカーがなかったら、どうなる？
私は稲妻KFCに入らない。雷門中に入って天馬と出会わない。いや、そもそも雷門中にすら行かないかもしれない。
神童との日々はどうなる？ もちろん、なかったことになる。私は自分の過去と向き合わないまま、サッカーに目を向けないまま、無気力に日々を過ごしていくのだ。
そんなの──
「いやだ……嫌だ、嫌だ！」
そう叫んで、ぶんぶんと首を横に振るも、頭痛が激しくなるだけだった。
「やめてよ、元に戻して！ サッカーを返して！」
「拒否権はないと言った」
「分岐点、インタラプトの補正完了──」と、インカムらしき機械に向かって話しかけるアルファの声が遠くなる。
痛みに抗うことができない。涙が一筋頬を伝う。
──神童……。
手先の感覚がなくなっていく。自分という存在が木っ端微塵になって、掻き消え、崩れて──
そうして何も、わからなくなった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
