313 サッカーの消去 ページ6
少年──アルファは短く答えた。
聞き間違いじゃ、ない。確かに、サッカーを消すと言った。
サッカーに対するアンチ？ だからってサッカーそのものを消すなんて、できるわけがないのに。
──もう行こう。こういう人には、関わらないのが一番だ。
「……今どきそういう、タチの悪い悪戯はしないほうがいいですよ。失礼します」
踵を返し、先を急ごうとしたが──素早い動きで、あっという間に回り込まれてしまった。
「NO。お前に拒否権はない」
感情のない目に再び射抜かれ、悟る。
──こいつは、本気でこの世からサッカーを消そうとしているんだ。
理屈ではなく直感で……これは本当に駄目なやつだと理解する。
焦る私をよそに、アルファは淡々と言葉を紡いでいく。
「AA、雷門中二年、サッカー部マネージャー。マネージャーゆえ痕跡消去の優先度は低いとされていたが、先程お前の時空間座標上に奇妙なエラーが観測された。不穏分子は先に潰す」
不穏分子。その無機質な響きに、私の神経は逆撫でされた。
──人を、データみたいに言うんじゃない。
「サッカーを消すなんて、そんなの許されない……そもそも本当にできると思ってるの？ 冗談だとしてもタチが──」
「信じられないなら目の前で見せてやろう」
アルファは私の言葉を遮り、いつの間にか手に持っていた赤いスイッチのような物を上に放り投げた。
それは一体どういう仕組みをしているのか、瞬時にサッカーボールのような機械に変わる。青や黄色、様々なスイッチが埋め込まれた機械に。
絶句する私を尻目に、アルファは地面に落ちたボールに足を乗せ、赤いスイッチを押した。
『タイムワープモード』
女性のアナウンスが響く。
同時にそのボール全体が赤く発光した。
アルファはボールをこちらに向かって蹴る。赤い光が真っ直ぐに迫ってくる。
「え──」
間の抜けた声を出すので精一杯だった。
瞬きをした僅かな間に、アルファはボールを挟んで、私のすぐ近くまで接近してきていた。
無機質な瞳の中に映っている自分は、間抜けな顔をして口をぽかんと開けている。
赤い光はみるみる質量を増し、私とアルファの身体を包み込んだ。
何も理解できないまま、ぎゅっと目を閉じる。脳を揺さぶられているような不快感が身体全体を襲う。
そうして私の意識は束の間、闇の中に霧散した。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
