354 立ち去っていく仲間 ページ47
速水だけじゃない。後から続々と降りてきたメンバーたちは、口々にサッカーへの不満を漏らし始める。
「なんでサッカーなんてしてたんだド？」
「ああ、わけわかんないぜ」
「ちゅーかさっさと帰ってテレビでも見ーよおっと」
天城さんに車田さん、浜野。
「どうしたんだ、みんな！」
神童の制止の言葉は届かない。
私はハッとした。『なんでサッカーをしていたんだろう』というのは、さっきスタジアムで私が陥りかけた感情そのものだった。
いつ？ ……デバイスから出た電波を浴びた直後だ。
「別に」
「正気に戻った、ってところだな」
「サッカーなんて二度としたくない」
「考えただけでムカつくよ」
倉間、霧野、一乃、青山。
「どうしてあんなのやっていたんでしょう、僕は？」
「サッカーなんて辛いことばっかりだもんなあ」
影山、狩屋。
「なんであんなに燃えていたのか、わからないな」
三国さんは身に着けていたグローブを外し、その場に放り捨てていった。サッカーに対する情熱が微塵もないことは、その行動を見ても明らかだった。
信助がグローブを拾い、呆然と三国さんの背中を見送る。
その場に残ったのは天馬、信助、神童、剣城、錦。それにマネージャー三人とフェイにワンダバ、最後に私。たったの十一人だけだった。
一体どうして。こんなに急に大勢の人間の心が変わってしまうなんてことがありえるのか。いや──
「そうか、あれはマインドコントロール波だったのか！」
突然ワンダバがそう叫ぶ。そう、あれとはすなわち、ベータが仕掛けたものだろう。それ以外に考えられなかった。
「奴らの放ったあの光線には、人間の考え方を変えてしまう効果があるのだ！」
「じゃあみんな、サッカーへの情熱を失ってしまったんですか？」
「そんな生易しいものではあるまい。おそらくサッカーを嫌いになってしまっているはずじゃ」
葵の疑問にアルノ博士が答える。
私は考えてから、おずおずと口を開いた。
「私もあの光線を浴びたとき、同じような気持ちになりかけた」
全員から、驚愕の視線をこちらに向けられる。
あの瞬間のことは、思い出すだけでもお腹の底が冷える思いだった。
「サッカーなんて別に必要ない、時間の無駄だって……本当に自然にそう思ってしまったの」
メンバーの去っていった方を見る。当然、誰かが戻ってくるなんてことはなかった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
