353 やるべきこと ページ46
「監督は……円堂監督はどうなってしまったんですか！？」
七色の光が前から後ろへ流れるワームホール内。
天馬は声を震わせて神童に詰め寄っていた。神童に尋ねても仕方ないことは天馬もわかっているのだろうが、そうせずにはいられないといった様子だった。
私はワームホールの景色を眺めながら、これは何か悪い夢なのではないかと考えていた。だけど現実は非情で、今この車内に監督はいない。
「恐らく、封印された」
天馬の質問に答えたのはワンダバだった。
「圧縮された次元の中で、動くことも話すことも……何もできない状態にされているはずだ」
何もできない状態という言葉に、私は戦慄した。それは一体、どれだけ苦しいことなのだろう。
恐怖で右手が勝手に震えだす。左手で強く抑えても、震えはなかなか止まってくれなかった。
＊
ワープした先は夕暮れの鉄塔広場だった。
歴史を変えられなかっただけでなく、円堂監督まで失ってしまった。やるせない気持ちは全員の心の中にあるだろう。誰も一言も口を開こうとしなかった。
「落ち込んでいる暇はないぞ！」
そんな重苦しい空気を切り裂いたのはワンダバの声。
「今はこれからどうすべきかを考える時だ。いずれ反撃のチャンスはきっと来る！」
みんなが顔を上げた。反撃という言葉を聞き、私は一筋の光明を見出せた気がした。
最初に声を上げたのは錦だった。
「こんクマの言う通りじゃきに！ くよくよ落ち込むんはわしの性に合わん。何より雷門魂に反するぜよ！」
「誰がクマだ！」というワンダバのツッコミはさておき、みんなの瞳に光が戻り始める。
それは私も同じだった。神童と目が合うと、二人で頷きあった。
そうだ。ここで終わることはできない。何か手があるはずだ。私たちは逆境に立たされても、その度に強くなって這い上がってきたのだから。
「取り戻そう、みんなで！ 円堂監督を、そして俺たちのサッカーを！」
天馬の言葉に、私たちは大きく頷いた。
立ち止まっちゃだめだ。サッカーを守るために、私たちは戦わないといけないのだから──
「やるなら、貴方たちだけでやってください。俺はもう協力しませんから」
その冷ややかな声はキャラバンの方から聞こえた。
ぎょっとして振り向くと、車内から出てきた速水が、私たちの方には目もくれずに立ち去ろうとしているところだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
