349 フィールドへ ページ42
試合再開。
ボールは神童からフェイ、そして──私へ。
少しのチャンスも逃すわけにはいかなかった。すぐさま切り込む。風が前から後ろに流れていく。
「あら貴方、選手だったんですね？ まあどれだけ人員を補充しても同じことです。ドリム、潰しなさい」
淡々としたベータの声が耳に届くと同時に、ドリムと呼ばれた選手が迫ってきた。その口元には下卑た笑みが浮かんでいる。
私は丹田に力を込め、天馬にバックパス。一瞬の後、首元に重い衝撃を感じると同時に視界がぶれた。ラリアットを仕掛けられたのだ。
ただボールは繋がった。視界の左で天馬が上がっていくのが見える。
私はこちらに駆け寄ってこようとする神童を手で制した。ラフプレーは覚悟していたから、これくらいどうってことはない。
そこからは細かいパス回しでボールをキープした。ベータにひとたび主導権を握られてしまったら終わりだ。
私たちはラフプレーの嵐にさらされ続けた。身体全体に痛みと疲労が蓄積していき、信じられない速度で体力が消耗していくのがわかる。
転んだ拍子に膝から血が滲んだけど、構っていられない。走り続ける。
神童とワンツーで敵のDFを抜く。私は素早く前方を見渡した。フリーなのは天馬だ。
普通のパスでは、カットされてしまう危険がある。確実にボールを繋げるためにはどうすればいいか。
──シュートチェインだ。やるしかない。
実戦でシュート技を使うのは初めてだった。失敗するかもしれないということは考えなかった。
「天馬！」
そう叫ぶと、天馬は理解してくれたのだろう、走る速度を早めた。
両腕を交差させるように勢いよく振るう。その軌跡から迸ったのは赤い旋律。
脈打つ旋律は炎を纏い、その勢いを増大させていった。
これなら──いける！
「『デュルテバーン』！」
炎の軌跡は、ちょうど化身を出しながら飛び上がった天馬の足元にぴったり吸い付いてくれた。そして、
「『魔神ペガサスアーク』──『ジャスティスウィング』！」
二人分の勢いが乗ったシュートは、ゴールに一直線に向かっていく。
勢いは十分。決まった、と確信した次の瞬間。
──キーパーの前にベータが割り込み、いとも簡単にブロックしてしまった。
「そんな……！」
私はシュートを放った姿勢のまま、呆然と呟いた。
化身シュートが通用しないという事実がすぐには受け入れられなくて、握った拳が震えた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
