348 沸き立つ怒り ページ41
「監督、俺たちも出ます！」
「あいつらの思い通りにはさせない！」
「ちゅーか、黙って見てられるかよ！」
一乃たちの真剣な表情を見て、監督はメンバーチェンジに踏み切った。
フィールドに駆け出していくその背中を見つめながら、私は膝の上でぎゅっと両拳を握り締めた。
──私も試合に出ることができたら。
ベンチに座って見ていることしかできない自分が歯痒い。大した戦力にはならないかもしれないが、みんなの痛みを肩代わりすることくらいはできる。
しかし交代直後、一乃たち三人はプロトコルオメガの猛攻を受け、数分と経たないうちに立ち上がれなくなってしまった。
もう交代要員はいない。ベンチに下げられたみんなは項垂れて、完全に戦意を喪失してしまっている。
私の中には今やはっきりとした怒りが沸き上がりつつあった。
サッカーを使って人をいたぶって。見下して嘲笑って。
未来の戦争がなんだっていうんだ。エルドラドがなんだ。サッカーがない未来なんて、正しい歴史とはいえない。
「私を──私を出してください！」
考える前に立ち上がっていた。監督は目を丸くして私を見つめている。
これは実質、大会の公式な試合ではない。だったら女子であろうと、マネージャーであろうと出られるはず。
「時間稼ぎなら……そう、天馬たち化身使いのサポートくらいならできます！ だからお願いします！」
「おいおい無茶だろ！ 何言ってんだよ！」
後ろから水鳥が制止する声が聞こえる。私はそれに従わなかった。
「もうこれ以上……見ているだけは嫌なんです」
サッカーはなくなっていいものじゃない。
消す権利なんて誰にもないと──強く、強くそう思った。
監督はしばらく私の瞳をじっと見つめていたが、ゆっくりと頷いてくれた。
「わかった。頼む」
背番号19番のユニフォームを着た私は、軽く準備体操をしてからピッチに上がった。
「A！」
みんなが驚愕の表情を顔に張り付けて駆け寄ってくる。まさかここで私が出てくるとは思っていなかったのだろう。
「あんなの見せられて、黙っていられない。私も戦う」
神童たちは私の加入を受け入れてくれた。
ただあと二人、選手が足りない。そこはフェイが、デュプリと呼ばれる人型化身を出現させて穴を埋めた。
私の役目は、攻撃に転じる隙を僅かでも作ること。天馬たち化身使いがシュートを打てるよう、敵を抑え込む。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
