344 分岐点にて ページ37
「これがタイムジャンプ……」
「なんか変な感じだな」
車窓からは、七色の光が前から後ろへ流れていく様子が見える。
私たちは現在進行形で過去に向かっている途中なのだ。いや、退行しているのだろうか？
「ワームホールを通って過去に向かってるんだ」
「ワームホール？」
「時空と時空を繋ぐトンネルみたいなものだ」
フェイとワンダバの説明を受けた水鳥が「わかるか？」と小声で尋ねてくる。私は首を捻るしかなかった。
ワームホールとやらは時空を繋ぐ度にそこに現れるのだろうか。まだ解明されていないだけで現代にもこんな空間があったとは、考えれば考えるほど不思議な感じがする。
と、その時。
「あああーーっ！！」
茜の大声が耳をつんざいた。
すぐ隣にいた私はびくりと身を震わせる。茜はカメラのレンズを窓の外に向けた姿勢のまま固まっていた。
「どうしたの茜……！？」
茜はゆっくりと振り向き、今撮影したらしいワームホールの画像をこちらに向ける。
「なんにも映ってない……」
がくりと身体から力が抜けた。茜が叫ぶなんでよっぽどのことかと思ったのに……いや、茜からしたらよっぽどのことか。
カメラのディスプレイに映っていたのは七色のワームホールの風景ではなく、ただの黒一色だった。
キャラバンはしばらくして、スタジアムの上空にワープした。この時空は現在から遡ること一か月前だ。
試合はもう始まっているようで、フィールドには蹲るアメリカ代表選手と、それを見る日本代表選手がいる。
フィールドに潜入するべく、私たちマネージャー陣が警備員の注意を逸らした。写真撮影をお願いしたのだ。
警備員は私たちを試合観戦に来た普通の中学生だと思ってくれたようで、パネルの前で写真を撮ってくれた。その後ろではみんなが続々とフィールドへの道に入っていく。
私たちもしばらくしてから警備員をやりすごして同じ道を辿った。フィールドに出ると、もう試合が始まろうとしているところだった。
一番初めに目に付いたのは、上空に浮かぶ黄色の発光体だった。ちょうどサッカーボールくらいの大きさをしている。
「あれは？」
「スフィアデバイスと呼ばれるものだ。プロトコルオメガはあれで会場全体の人間を洗脳し、試合の異常に気付かせないようにしている」
私の疑問にワンダバが答えてくれる。これだけ大勢の人間を一気に洗脳することができるということが恐ろしかった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
