309 穏やかな日々 ページ2
スーパーから出ると、たちまち強い日差しが身体に降り注ぎ、体感温度がグッと上がった。
冷房の恩恵から放り出された私は、アスファルトに照りつける太陽光に目を細める。そうして両手に一つずつ持った、食材の入ったエコバッグを持ち直し、一歩を踏み出した。
「なあなあ、今からサッカーしねえ？」
「いいよ！ んじゃー河川敷まで競争な！ よーいどん！」
「あっ、ずりー！ それフライングだろ！」
目の前の歩道を。サッカーボールを持った男の子たちが、暑さに負けず走り出していく。
私はその光景を、暖かな気持ちで眺めていた。
──早いものだなあ。
雷門がホーリーロードで優勝してから、三ヶ月近くが経った。
あれから町でのサッカー熱は右肩上がりに盛り上がりを見せ、あちこちでサッカーの話題が飛び交い、プレー人口も増加した。
それに伴い、サッカー教育プログラムというものが豪炎寺さんの手によって設立された。そしてそのプログラムの一環として、天馬は全国各地の子供たちにサッカーを教えている。
サッカーの輪が全国に広がり始めたのだ。
私たち家族も、穏やかな日々を過ごしている。
母さんは変わらず、平日昼間は仕事に行きつつ、夜は疲れて帰ってきた私を暖かく出迎えてくれる。
姉はこの前、五十嵐先生との新居へ引っ越していった。と言ってもここから電車で数駅ほどしか離れていない場所なので、会おうと思ったらすぐ会える。結婚式はもう少し先みたいだ。
そして父さんは新たな就職の口が見つかり、今はそこに勤めている。フィフスセクターに勤めていた社員たちは、響木さんたちの計らいによって、皆何かしらの職にありつけることができたようだった。
家までの道を歩いていた私は、前方に見知った人影を見つけて一瞬立ち止まる。
自分の頬が綻ぶのがわかった。考える前に、だっと駆け出す。その人物の名前を呼びながら。
「神童ー！」
神童は振り向いて私の姿を見ると、同じように微笑んでくれた。
同じ町に住んでいるのだからこうして会うのは別に珍しくない。だけど実際に顔を見ると、たまらなく嬉しくなる。
「A。お使いか？」
「うん、まあね。そっちは？」
「ちょっと学校の課題が行き詰まってしまってな。気分転換に散歩してるんだ」
そう言いながら神童は、当たり前のように私が提げている荷物のうちの一つ──しかも重い方──に手を伸ばし、ひょいっと持ってしまった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
