338 親善という名の ページ31
火来校長と入れ替わりに円堂監督と音無先生が来ても、陰鬱とした空気は晴れなかった。
「どうしてサッカーが法律で禁止されなくちゃいけないの？」
信助の呟きはもっともだった。ただ、全くわからないというわけでもない。
「外国のチーム相手に、あんな試合をやってしまったんだもの」
「こんなことになっても、仕方がないのかもしれねえな……」
葵と水鳥の言う通りだった。
その試合をテレビで見ていた私は、ただ呆然としていたのを覚えている。こんなことがあっていいのか。そう思わせられるほど凄惨な試合だった。
「どういうことですか？」
「一か月前の日米サッカー親善試合よ」
首を傾げる天馬に音無先生が答える。
私は天馬の反応を訝しんだ。大々的なニュースになったのだ、まさか知らないはずはないだろうけれど。
「それなら知ってます！ いい試合だったなあ！」
「俺も沖縄にいる時テレビで見たよ！ すっごい興奮した！」
──後輩二人のその反応を見て、私は目を見開いた。
まさか、あれは一方的な暴力だった。間違っても感動できるものなんかではない。
一番驚いたのは、神童までもが口元に薄ら笑みを浮かべていることだった。まるで熱い試合を思い起こすかのように。
「貴方たち、あれがいい試合だったなんて……別の試合と勘違いしているんじゃないの？」
見かねた音無先生が口を挟むと、今度は天馬たちが目を丸くした。
神童の視線がこちらに向く。事実を確かめるように。だけど私は隣にいる茜と顔を見合わせ、首を傾げることしかできなかった。
「そうだド。親善試合は日本代表の暴力行為で中止になったド」
「ちゅーかあの試合のせいで、みんなサッカーは野蛮で危険なスポーツだって思っちゃった」
「ああ。あの試合が原因でサッカー禁止令が出たと思って間違いないだろう」
そう言う監督の表情は苦々しげだった。
アメリカ代表選手のほとんどが大怪我をしたことで、親善試合は全国的、いや国際的なニュースになった。
日本サッカーの面汚し──そんな過激な見出しが新聞の紙面に踊っていたのをよく覚えている。
神童たちは何の話をしているんだろう。音無先生の言うように、勘違いをしているんじゃないだろうか──
「明らかにエルドラドの仕業だ！」
突然響いた大音声に、全員の視線が入口に集まった。
果たしてそこにいたのは……水色のボディをした、二足歩行の可愛らしいテディベアだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
