305 ここから、これから ページ5
神童の手が、涙を拭う私の左手首を優しく掴んだ。そしてそっと動かして、私の顔が見えるようにする。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を見られたくはなかったけど、抗う力も抜けてしまっていた。
「……Aも、同じ気持ちでいてくれたのか？」
見つめられて、震えながら頷く。
こんな切実な気持ちになったことはなかった。ようやく現実が色を帯びて、目の前に迫ってくる。
好きでいてくれているんだ。神童は、私のことを。
濡れた瞳で頷き、笑顔を作ってみる。上手く笑えていないかもしれないけれど。
そうして神童の瞳を、真っ直ぐに見つめ返す。
息を吸う。言葉を紡ぐ。
「──神童が好き。いちばん、大好き」
左手を動かして、神童の手のひらに触れてみる。
神童は私の手を優しく握り返してくれた。
好きな人と手を繋ぐというのは、こんなにも心が暖かくなるものなのだと初めて知った。手のひらから伝わる温もりが、心を優しく高鳴らせる。
神童の手は私のより大きく、指も長かった。包み込まれるような感覚に、私の頬は自然と緩む。
私たちはしばらくそうやって、黙って手を繋いでいた。
西の空に夕日の残光が消え、東から月とともに藍色の夜がゆっくりと訪れる。
「今まで神童に言えなかったこと、色々話したいな」
空を見上げながら、私は無意識でそう呟いていた。
神童がそれに反応して首を傾げたのを見て、しまったと思ったけど、観念してぽつぽつと白状する。
「わ、私がいつから神童のこと好きだったかとか……モヤモヤしたとか……」
「へえ、それは是非聞きたいな」
「こ、心の準備ができたらにして！ それに私だけじゃなくて、神童にも話してもらうよ……その、この前病院で、私が神童のこと抱きしめちゃった時、何を思ってたかとか！」
「……恥ずかしいから、その話には触れないようにしていたんだけどな」
私の必死の抵抗に、神童はちょっと困ったように笑った。
「まあ、その辺はゆっくり話そう。時間はあるんだ」
これから……一緒に。
街でよく見かける、幸せそうなカップルみたいに──私たちも、一緒に時間を過ごしていく。そう思うとたまらなく嬉しくなった。
手が離れる。神童は立ち上がり、軽く伸びをした。
「もうこんな時間か。暗くなってきたし、送るよ」
「待って」
慌てて呼び止める。もう少しだけ話していたい、と思わなくはなかったけれど、私の口は別のことを喋っていた。
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キメラ(プロフ) - 彼方さん» こちらこそ作品を読んでいただいてありがとうございます！主人公の家族については個人的に力を入れて書いた部分でもあるので、そこを褒めていただけて嬉しいです🥲これ以降続くCS編も話数は多くなるかと思いますがまた見ていただけたら嬉しいです！ (2023年1月21日 15時) (
レス) @page4 id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - 終始ドキドキで一気読みしちゃいました！お姉さんのキャラが大好きすぎるし、何によりも作者様の文才に脱帽です、、素敵な作品をありがとうございました！ (2023年1月21日 14時) (レス) @page10 id: 40379c818e (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - わたぐもさん» 作品に触れていただけて嬉しいです🌸 ありがとうございます！ 個人的な話ですが一つの作品を完結まで書き切れたのはこれが初めてなので、自分の中でも思い入れの深い作品になりました！ CS編以降も、お暇なときにでも見ていただけたら嬉しいです！ (2022年10月30日 22時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
わたぐも(プロフ) - 今日読み始めたのですが、昨日完結されたのですね…！お疲れ様でした！無印もGOも昔から大好きなのですが、最近は新たに長編が出てきたり、完結しているものも少なく久しぶりに夢中になりました。感想文字数が足りそうになく…素敵な作品をありがとうございます！ (2022年10月30日 22時) (レス) @page10 id: c10d05a687 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - ひよこ豆さん» ありがとうございます😊 言葉選びは色々考えた部分なので、そこを気に入って頂けて何よりです🍀 CS編以降も鋭意執筆致しますので、また見て貰えたらと思います！ (2022年10月30日 9時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年10月27日 11時
