816 望まぬ対峙 ページ9
赤い袖なしダウンジャケットのようなユニフォームを着た選手たちが続々とフィールド入りする。
やはり全員、一筋縄では太刀打ちできなさそうな雰囲気がある……と、相手の顔を見まわしていた私は、最後尾にいる選手の顔を見て愕然とした。
一人オレンジのユニフォームを着たその選手は、真顔で列に並ぶ。その左腕にはキャプテンマーク。
兎を彷彿とさせるエメラルドグリーンの髪型に、同じ色の瞳。
「そ、そんな……！」
隣で神童が絶望的な声を上げるのを、私は呆然となって聞いていた。
──フェイだった。フェイがガルを率いるキャプテンとして、フィールドに立っている。
客席に座っているはずなのに、どこまでも堕ちていくかのような絶望があった。
こんな形で戦うことになるだなんて、そんなのあんまりだ。夢であってくれと願っても、現実はどこまでも無情に真実を突き付けてくる。
天馬がフェイの方に駆け寄り、何か訴えかけている。しかしフェイはそれに二言三言返しただけだった。
その表情に、今までの快活な笑みは一切浮かんでいない。今のフェイは、私たちの知るフェイではないのだろうか。しかし、それでも。
「こんなことって……」
クロエが小さな声で呟く。私は前を向いたままその言葉に返した。
「サッカーで勝って、証明するしかない。サッカーは戦争の道具じゃないっていうことを。それから──フェイが私たちと過ごした日々は、なかったことになんかならないってことを」
私の顔を見ていたクロエは、ややあって頷く。そうしてフィールドに目を戻した。
両チームが位置に着く。
熱気あふれる観客とは裏腹に、選手の間には緊迫した空気が漂っていた。
立ちはだかるのが、袂を分かってしまったかつての仲間だったとしても……戦うしかない。そして目を覚まさせるのだ。フェイは確かに、雷門の一員だったのだと。
エルドラドチームのキックオフで試合開始。運命の第三戦が始まった。
太陽からパスを受けた天馬が上がっていく。その距離がフェイと縮まっていき──そして隣を通過した。
フェイ、そしてガルの他のメンバーも、一様に棒立ちで、天馬たちが上がっていくのを許している。ザンの時と同じだ。私たちを舐めているつもりなのか、キーパーに全幅の信頼を置いているのか……。
しかしだからといってこちらも攻撃の手を止めるわけにはいかない。ゴール前、太陽が躍り出た。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 288人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年12月28日 11時
