811 昨日の敵は ページ4
次に全てがかかっている──天馬たちにのしかかるプレッシャーは大きいだろうが、みんななら乗り越えて、勝利を手に入れられるはずだ。
三回戦の相手は一体どんな奴らなのか。そんなことを思案していた時。
私たちの前に、アルファとベータとガンマ、それにエイナムが立った。
神童が立ち上がる。私とクロエもそれにならって腰を浮かせた。
「アルファ、ベータ、ガンマ……勝てたのはお前たちのおかげだ。ありがとう」
感謝の言葉を投げかけられ、それぞれ顔を見合わせるアルファたち。
まず初めにベータが胸を反らせて得意げに返した。
「ふん……別に貴方たちのためにやったわけじゃないですわ。
「そういうことさ。ま、僕がキャプテンだったなら、もっと楽に勝てたけどね」
ガンマの軽口に神童は「そうかもな」と肩を竦めてみせている。
試合中はあれだけ噛み合っていなかったのに、今はこうしてなんでもないやり取りができている。私はその事実に、嬉しさではないが、それに近しい感情を抱いた。
ベータの紅色の瞳が、ふとこちらを向いた。そうして私の顔を下から覗き込むようにしてくる。
「それに、貴方も少しは成長していたみたいですし……その努力は認めてあげなくもないわ、Aさん」
「偉そうに。もうちょっと素直に言えないの？」
これはクロエの台詞だった。その表情はどこか穏やかで、口調にはからかう色が浮かんでいた。
ベータは「まあ、躾のなってない化身ですこと」とおどけてみせた。
神童の視線を受けたアルファは相変わらずの淡々とした話し方で、自分の心境を吐露する。
「私は任務を遂行しただけだ。だが私の胸にずっと渦巻いていた棘のような感覚は消えたようだ。あれは一体、なんだったのか……」
自分の胸に手を当てるアルファの仕草を見た天馬は、目を丸くしながら口を開いた。
「それってひょっとして、悔しかったってことじゃない？」
灰色の瞳が向けられる。
それはごくごく当たり前の、小さな子供にも備わるような感情だった。勝てば嬉しい、負ければ悔しい。次に勝つためにもっともっと努力する……。
そういったものを、アルファは上手く言語化できないみたいだった。ほんの少しだけ首を傾げながら、天馬に言葉の意味を問い返す。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年12月28日 11時
