835 本当の仲間 ページ28
湿っぽい雰囲気になりそうなのを避けたかったのだろう、黄名子はパッと顔を輝かせて話題を変えた。
「そうそう、あの時の遊園地のチケット、アスレイさんがくれたやんね。お友達を誘って行ってくるといいよって」
「え……あ、そうだったんだ。あとでお礼言わないとね」
「あとあと、アーサー王の王冠も用意してもらったんよ！ さすがにその時は無茶お願いしちゃったから、ちょっとだけ渋い顔されちゃったやんね」
明かされていく事実に、私は素直に目を剥いた。支援者Xもといアスレイさんは、秘かに私たちを助けてくれていたのだ。
アスレイさんのことを話す黄名子は楽しそうだった。
今のお互いの関係は『協力者』だ。だけどこの先、大人になって恋をして、『夫婦』になる。
──ねえ、人を好きになるって、どんな感じ？
──うちも……いつかこの先出会った人に、そんな思いを抱けるかな。
私の頭の中に蘇ったそれは、白亜紀での会話だった。
あの時の黄名子はもう、自分の未来を知っていたのだ。知っていたからこその質問だったのかもしれない。
黄名子はきっと、この先の人生を真っすぐに歩んでいくだろう。フェイをその手に抱くために。
＊
部屋に集った私たちはクラッカーを手に、フェイが戻ってくるのを待った。ザナークもちゃっかり端っこの方にいる。
扉に耳をつけた私はやがて、廊下を歩く一人分の足音を拾った。
「……来た来た」
みんなに合図をしながら扉から離れる。天馬たちはそれぞれ唇に人差し指を当てながら、ワクワクとその時を待った。
「これでさ、サカマキとかが入ってきたらどうする」
「変なこと言わないでよ」
半笑いになりながらクロエを小突く。クロエは声を殺して、いひひっと笑った。
足音が扉の前で止まった。
一秒、二秒、時間が過ぎる。扉が開いた。フェイだ──と分かった瞬間、全員でクラッカーの紐を引いた。
パン、パァン──と、けたたましい破裂音が鼓膜を打つ。紙吹雪や紙テープで彩られた空間で、私たちはフェイを出迎えた。
「「おかえりー！！」」
充満する火薬の匂いすら、楽しさを倍増させてくれている気がする。
フェイは垂れ幕を見、そして自分の髪の毛にくっついた紙テープをつまんで、ぽかんとなりながら一言呟く。
「これって……？」
「水鳥さんが考えたんだ！」
「どうせなら派手に迎えてやろうと思ってな」
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年12月28日 11時
