832 出迎えの準備 ページ25
「ありがとう、天馬君──みんな」
アスレイさんが言ったのと同時、フェイは踵を返して歩き出す。
「フェイ！ 待ってるよ！」
フェイは天馬の言葉に小さく頷き返した。
遠ざかる背中が小さくなっていく。私たちはその姿が見えなくなるまで見送っていた。
柔らかな沈黙が降りる。みんなはしばらく誰も何も言わなかった。
黄名子がフェイのお母さんだったこと、支援者Xの正体がアスレイさんだったこと……そういった事実は呑み込めたけど、どう言えばいいのか、不用意に言葉を継ぐことが少しためらわれた。
フェイも黄名子も私たちの仲間だ。そこは絶対、何があっても変わらないけれど。
そんなどこか湿っぽい雰囲気を破ったのは、水鳥だった。
「そうだ……どうせだったら、フェイが帰ってきたところをパーッと出迎えてやらねえか？」
全員の視線が向けられる。私は首を傾げながら、思ったことを率直に口にした。
「パーッとって、どういうこと？ クラッカーとか？」
「そうそう、そんな感じだよ」
みんなの顔が輝く。私もその状況を想像して、口角が上がった。
まさに妙案だった。賑やかに迎えればきっと、フェイも気まずさを覚えることはない。
「いいですね、それ！」
「ちゅーか『おかえりフェイ』って垂れ幕も作ったらよくね？」
「浜野先輩、ナイスアイディアです！」
「よっしゃ、そうと決まれば早速準備するぜよ！」
一気にいつもの盛り上がりを取り戻した私たちは、口々に話しながら通路を歩きだす。
「……フェイは、良い仲間に恵まれたんだな」
アスレイさんの呟きに、黄名子が満面の笑みで返していた。
＊
フェイにあてがわれた部屋に向かっている私は、ふと一行の一番後ろにザナークもちゃっかりついてきていることに気が付いた。
私たちの方に来るんだ……いや、
ザナークも一緒になってクラッカーを鳴らすのだろうか。その絵面を想像した私は頭の中でかぶりを振る。絶望的に似合わない。というかそれ以前に、雷門の黄色いユニフォームがこんなに似合わないことってあるのだろうか。
真紅の瞳がこちらへ向けられる。
「なんだ？」
「いや……雷門のユニフォーム似合ってないなって思って」
ザナークの眉が吊り上がった。つい本音が漏れてしまった。
私は反射的に肩を竦めたが、殴りかかられるようなことはなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 288人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年12月28日 11時
