830 親子だからこそ ページ23
「──フェイ、なに聞き分けのないこと言ってるやんね！」
と。そこで私の隣にいた黄名子が前に出た。
思わず目を瞬かせる。琥珀色の視線は、真っすぐフェイに注がれていた。
「な、なんだよ黄名子……」
「言うこと聞くやんね」
狼狽えるフェイに対し、黄名子は一歩も引かない。その姿は、駄々をこねる子供を叱る母親のようだった。
そう、母親……。
「余計なお世話だ！ だいたい、なんで僕に関わってくるの？ 黄名子には関係ないじゃないか！」
「関係あるやんね」
拳を握り締めた黄名子は小さく息を吸い込んだ。
そうして、意を決したように告げる。
「フェイは──フェイは、うちの子供やんね！」
静寂。
クロエと顔を見合わせる。他のみんなもそれぞれ仲間の顔を見て、黄名子の言ったことを理解してから、
「「……ええっ？！」」
一斉に驚愕の声を上げた。
肝っ玉がひっくり返ったんじゃないかというような驚愕が全身を支配する。みんなもそれ以上何も言うことができず、ぽかんと口を開けていた。
頭が混乱している。だって黄名子は中学生で、フェイも同い年くらいだから、子供だなんてことは物理的に絶対無理なのに……。
驚愕が去ったらしいフェイは、呆れたように視線を逸らした。
「僕が、黄名子の子供？ 何を言い出すかと思えば……」
「黄名子とフェイは同い年でしょう？ 親子なんてありえないんじゃないの？」
私が思ったのと全く同じ疑問をクロエが口にする。それに対してアスレイさんが説明を加えた。
「黄名子は私がタイムジャンプによって、フェイと同年代の少女の時代から連れてきた、紛れもないフェイの母親だ」
アスレイさんは自分がフェーダにいる間、フェイを守る役を誰にするか迷ったのだという。
そこで母である黄名子に頼むことにした。
黄名子は。
突然目の前に見知らぬ男性が現れ、自分が未来の夫であること、子供を授かることを告げられ、さぞ混乱しただろう。
しかし最終的には、未来の息子を見守ることに決めた。それにどれほどの覚悟を必要としたのだろう、それだけの悩みを乗り越えたのだろう。
「急に菜花がサッカー部の部員になっていたのも、フェイの父親によって行われたインタラプト修正によるものだったのか……」
神童の呟きにアスレイさんが小さく頷く。
黄名子が加入したのはタイムパラドックス──時空の歪みなどではなかった。アスレイさんがフェイのために施したものだったのだ。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年12月28日 11時
