829 親子だとしても ページ22
沈黙が流れる。
フェイの顔には侮蔑と悲しみと、少しの怒りが浮かんでいた。そうして立ち上がり、大げさに両手を広げてみせる。
私たちは一歩離れたところで、二人の会話を聞いているしかない。
「今日は僕を助けたい気分だった……そんなところ？」
「ち、違う！」
「貴方は僕を捨てたんじゃなかったの？」
全員が息を呑む。
親が子を、捨てる。それは絶対にあってはならないことのはずだった。フェイの顔は悲痛に歪んでいた。
「僕が怖くて、僕を捨てた！」
「それは違う、お前が怖かったからではない」
「じゃあなんだよ？ なんで僕を一人ぼっちにしたんだ！」
重い沈黙が流れた。
アスレイさんは息子の顔を真っすぐに見ることができないのだろう、視線を足元に投げかけながら話す。
「私はエルドラドの幹部として、その地位を失うことを恐れた。自分がこれまで築き上げてきた地位を……。
お前のことがエルドラドに知られれば、お前もただでは済まなかったろう。あれが、お前と私自身を守る唯一の手段だったんだ」
しかしアスレイさんは、フェイを捨てきることができなかった。
そうして息子を心配し、フェーダに入った。そうして支援者Xとなり、SARUに近づいた……。
脳裏に、ふと自分の両親の顔が浮かんだ。
私が危ない橋を渡ると知りながらも、応援してくれた二人。最後に顔を見たのは弥生時代にタイムスリップする朝だ。もうずいぶん会っていない。
親子は当然、共に暮らし、お互いの存在を近くに感じられるのがいいに決まっている。しかしそうできない時──この時のフェイからすれば、自分が捨てられたと感じてしまうのは避けられないことに思えてしまった。
「遅いよ……もう何もかも遅いんだ」
「遅くはない！ フェーダを出るんだ！」
アスレイさんが手を伸ばすのを、フェイは一歩下がって避けた。それはともすれば、アスレイさんにとっては突き飛ばされるよりも重い拒絶だったかもしれない。
アスレイさんは諦めずに息子を説得し続ける。たった一人の息子を救うために。
「聞いてくれ、フェイ。このままフェーダにいたら、お前の心はSARUの邪悪な心に呑み込まれてしまう！」
「フェイ、とにかくお父さんの話を聞いてみようよ──」
「天馬は黙ってて！」
フェイの叫びが壁に反響して消える。
その瞳には涙の粒が浮かんでいた。もう辛い思いをするのはたくさんだ──そうアスレイさんに、そして私たちに訴えかけているようにも見えた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 288人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年12月28日 11時
