827 決着つかず ページ20
それは客席の前面、端の方からした声だった。
見ればそこにいたのは白いローブの老人。見た目よりずっと朗々とした声音でフェイに訴えかけている。
フェイの視線がそちらに向いた。同時に放出されていた不可視のエネルギーが徐々に弱まっていくのが分かった。
エルドラドチームの面々がゆっくりと立ち上がる。今のは一体何だったのか……戸惑いの表情が、そう言っていた。
「フェイ、もうこんなことはやめるんだ！」
老人は尚も声を張り上げる。
彼は一体、何者なのだろうか。フェーダの特別席にいるというからには、
フェイの視線が、その老人とSARUを行ったり来たりし始めた。SARUにも何か言われているのだ。
エメラルドグリーンの瞳は揺らいでいるように見えた。迷っているのだ……どちらの声に従うか。そして迷う余地があるということは、フェイは少なからず私たちへの思いを完全に断ち切っていないということ。
その時。走り出したトーブが天馬に向けてパスを出したことで、試合が動き出した。
──そうだ、まだ終わっていない！ あと一点を決めた方が勝つ！
天馬と相手選手が同時に跳躍した。ボールを挟んで二人が相対したその瞬間。
試合終了の長いホイッスルが鳴る。ボールはそのまま芝に落ちていった。
得点は2-2、引き分け。
ラグナロクは両陣営ともに一勝一敗一分という結果で幕を下ろした。
しかしその結果以上に、目の前で起こった出来事を呑み込み切ることができなかった。
突如放たれた理不尽な力、フェイの思い、謎の老人。何がどうなっているのか、てんで理解が追い付かない。
と。フェイの身体がぐらりと傾き、うつ伏せに倒れた。
天馬がすぐに駆け寄ろうとするも、ガルのメンバーに行く手を遮られる。
するとローブの老人が歩み寄ってきて、フェイの身体を抱えあげる。その手つきは丁寧で、少なくともフェイに危害を加えようとしている様子はないようだった。
「──みんな、聞いてほしい！」
と。そのタイミングでSARUの声が会場中に響く。SARUはステージの上に姿を現し、スタジアムにいる全員に向かって語り掛けた。
「トウドウ議長も認めてくれた。ラグナロクは改めてもう一度、最終決戦を行うよ！」
観客のボルテージが一気に上がった。
私たちは表情を引き締める。本当の最終決戦……勝敗を決するための延長戦といったところか。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年12月28日 11時
