824 嵐の前の ページ17
天馬へとパスが渡る。そこに猛然とフェイが突っ込んできた。
「天馬！ これが君と僕の最後のサッカーだ！」
「俺たちに最後なんてない！ この試合が終わっても、いつだってサッカーはできるよ！」
全てが終わり、全てから解放されて──なんのしがらみもないプレーを、フェイともう一度できたら。いや、やるんだ。必ず救って見せる。
壮絶な競り合いを制したのは天馬だった。ボールを奪い、レイザへと回す。そしてサイドから走り込んできたザナークへ。
「超巨大台風の脅威、身に染みて味わってもらうぜ！」
ザナークの言う脅威──それは立ちはだかったDF三人の身体が、風圧で吹き飛ばされるほどのものだった。
そうしてあのシュートが再び猛威を振るう。
「『グレートマックスなオレ』──スーパーーーっ！！」
「『白尾神タマズサ』──『シキガミラインズ』！」
キーパーの化身を破り、二点目を追加することに成功した。
2-2……これで試合は振り出しに戻った。
「やった、同点！」
「このまま巻き返せるド！」
クロエと天城さんの完成を聞きながら、私も拳を握り締める。
いける。今のチームの士気とザナークの突破力があれば、きっと！
そうして勝って、フェイに思い出してもらうのだ──私たちが愛した本当のサッカーを。
試合再開。
決勝点を狙うべく走り出したガルのプレーを、太陽が防いだ。
「《ミキシトランス・孔明》！」
ボールは天馬へ。そうしてそこに走り込んでくるフェイ。
「俺はこんな形でフェイと勝負したくなかった……フェイだって同じ気持ちなんじゃないのか？！」
「勝手に決めつけるな！」
天馬はフェイのマークから抜け出した。プレーは浜野から速水へと繋がる。
「みんな、上がれ！」
天馬の指示で、チームは攻撃の体制に出た。
ザナークへパスが通る。このままもう一点追加することができれば、私たちの勝ちがほぼ確実になる……！
しかし。私たちはそこで、フェイが棒立ちのままどこか一点を見つめているのに気が付いた。
さっきの天馬の競り合いから、一歩も動かなくなってしまっている。
「どうした、フェイ？！」
「ただの人間ごときに気迫負けか！」
異変に気付いたガルのメンバーからも声がかかる。
私はフェイの視線の先を追った。フェーダの特別席、そこに座す……SARU。
二人の間で、不可視の会話が交わされているとでもいうのか。そんな雰囲気が感じられた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年12月28日 11時
