819 アイツの帰還 ページ12
「フェイ──これが俺の気持ちだ！ 『ワンダートラップ』！」
天馬が動いた。必殺技でボールを奪うことに成功する。
しかしフェイはそれをただでは通さない。目の前に立ち塞がったフェイに対し、天馬はもう一度必殺技で駆け抜けようとするが。
「『アグレッシブビート』──」
フェイのチャージに破られてしまう。
天馬が地面に背をしたたかに打ち付けたと同時に、前半終了のホイッスルが鳴った。
私は凝り固まってしまった肩の力を抜いた。知らないうちに姿勢が前のめりになっていたのだ。
スコアは0-2。しかし点差以上に、両チームの間に大きな力の差がある。
前半は完全にガルのペース。ボール支配率は相手が九割を占めていて、一度だけこちらが撃ったシュートも打たせてもらったようなもの。
「どう戦えばいいのかな……」
心細げなクロエの呟きに、私が言葉を返そうとした……その瞬間。
「──やはり俺様の力が必要なようだな！」
高らかな大音声が耳を劈いた。
私たちは一斉に声がした方を振り向いた。その姿を見る前から、そいつが誰かはわかっていたけれど。
客席……ではなく、スタジアムのアーチの中途に仁王立ちしているその人物は。
つい昨日、武者修行に行くとかなんとか言って去っていったという──
「ザナーク！」
ヒーローは遅れてやってくるとよく言うが、この場合はヒール(悪役)になるのだろうか……。
ザナークは私たちの方を見て、にやりと不敵な笑みを浮かべた。そうして軽快な足取りで、エルドラドチームのベンチまで降りていく。
私は挑発されたからというわけではないが、席を立って客席の一番下まで降りて行った。後ろからクロエもついてくる。
「久しぶりだなあ、懐かしいぜ」
ザナークはチームの面々に向かってそう言った。すぐさま速水と浜野がツッコミを入れる。
「何言ってるんですか？」
「ちゅーか昨日も会ったじゃん」
「そう言うと思ったぜ──だがお前たちにとっては昨日でも、俺様には何か月も前のことだ。何を隠そう俺様は、長い長い特訓を終えてきたところだからな」
私は心の中で得心した。あのバイクで色んな時代を駆けまわったんじゃないかという私の予想は、当たっていたわけだ。
「どういうことだ、ザナーク？」
「ザナーク、だと？」
天馬の問いを受けたザナークの眉が、ぴくりと動く。深紅の瞳が妖しく閃いた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年12月28日 11時
