763 大団円 ページ6
振り向けばベンチから歩いてきていた
難升米は一歩前に出て、女王に向かって頭を下げる。
「私が捕虜になったばかりに、ご迷惑をおかけしました」
「……そう思うのなら、もう国のために命を差し出すなどどいうことは口にするな。そして
日之芽さんは難升米の肩を優しく抱いた。難升米はそうされてもやっぱり表情を変えなかったけれど、纏う雰囲気がどこか柔らかなものになっている気がした。
次に日之芽さんは私たちの顔をぐるりと見回した。私たちは晴れやかな面持ちで、言葉を待つ。
「よくぞ戦ってくれた。心から礼を言う。勝利を収められたのは皆が一つになり、闘志を燃やしたからこそだ。そして──」
細められた翡翠の瞳がこちらを向いた。私は反射的に背筋を正す。
「Aくん。君に預けた私の力は、邪馬台国を……そしてサッカーを守る助けになったようだね」
「──はい」
卓越した天眼で勝利への道筋を描く、英傑のリベロ。
──貴方が示してくれた道が、私を光へ導いてくれたから。
「日之芽さんに貰った教えを、言葉を、力を……これから先の旅でも活かしてみせます。ありがとうございました」
日之芽さんは頷き、天を仰ぐ。私もつられて視線をやった。
南寄りの空に浮かんだ太陽が、私たちを祝福するかのように、陽光を降り注がせていた。
＊
私たちは行きと同じだけの時間をかけて、邪馬台国へ戻った。
国の入口近くでは、
難升米は「お母さん」と一言呼びかけただけだったけれど、伽与さんにとってはそれで十分だったようで、安堵しきったように何度も頷いていた。
かくして少女の命は守られ、邪馬台国にもひとまずの平和が訪れた。
そして。
「もう行くのか？ 礼もしたい、一晩くらい休んでいったらどうだ」
日之芽さんの言葉に、ジャージに着替えた私たちは首を横に振った。
もうタイムリミットはほとんどなくなっている。間違った歴史が定着する前に、こちらから手を打たないといけなかった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
