806 燃え立つオメガ ページ49
抑えきれない興奮が、自分の口元に笑みとなって表れた。
神のタクトが、進化した。このタイミングで──この土壇場で！
初めにパスを受けたのはガンマだった。完璧な位置とタイミング。
炎の軌跡が、中盤の空いたスペースへと延びる。ベータがそこに俊足で走り込み、ガンマからのパスを受け取る。
そして前線、アルファへ。寸分の狂いもない連携で、ボールはあっという間に敵のゴール前へ運ばれた。
「──決めろ！」
神童の叫びがフィールド全体に響く。ゴール前、絶好の位置にボールを叩き込んだ。
「イエス──今なら我らの力を合わせられる！」
「「おう！！」」
あれだけバラバラだった三人が一つになった瞬間を、私はこの目で見た。
そしてエルドラドが誇る精鋭たちの、最強の必殺技が繰り出される。
「「『シュートコマンド24』──オメガアタック！！」」
七色の軌跡が、一直線にゴールへ迫る。それは立ち塞がったDFを、いとも容易く吹き飛ばした。
「させるか！ 『リジェクション』──ぐわあっ？！」
そしてキーパーの必殺技さえも。
ホイッスルの音と共に、会場が湧いた。私たちはついに一点を返すことに成功したのだ。
「あれは、ベータが私たちと一緒に……」
「アルファが我々と共に、ムゲン牢獄で特訓した合体技だ」
オルカとエイナムが、驚愕に目を見開いて零す。見ればガリングもベンチから腰を浮かせて、三人を見つめていた。
あの三人はそれを初めての試みで、一発で決めてしまったということか。敵ながら──いや、今はもう味方か──恐ろしいポテンシャルだ。
私は神童の元へ駆け寄り、ハイタッチを交わした。
「やったね神童！ ここからあと三点、巻き返していこう！」
「ああ！」
この一点は大きい。あの見事なシュートを、新しい神のタクトが導いたのだ。
しかしなぜ、完璧な指揮を執ることができたのか。それを聞くと神童は「サカマキ監督に言われたことを戦術に組み込んだんだ」と話した。
あの時監督から伝えられたのは、三人のボール保持率と走力だったのだという。
キープ力のあるガンマにボールを預け、スピードのあるベータを裏のスペースに走らせる。そして両方のバランスが取れたアルファを攻撃の起点にする……。
たった六つの数値からそれを読み取り、戦術を組み立て、一点を返した──やっぱり神童は、すごい。緩やかな興奮が、つま先から立ち上ってくる。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
