802 本気で挑めば ページ45
ハーフタイムも残りわずか。私たちは神童の指示を聞く。
「いいかみんな──俺たちが負けたら、ラグナロクはそこで終わりだ。すべての希望が失われることになる」
しかしその言葉を聞いても、エルドラドメンバーの意識は変わらなかった。
「言われなくてもわかってますわ」
「イエス。勝つことが私の任務」
「へえ……みんな自分勝手にやってて、任務が果たせるんすかねえ」
投げやりな狩屋の言葉に、エイナムが反応する。
「我々は最善を尽くしている。しかし、味方に足を引っ張られては……」
「なに……？！」
「俺たちが悪いってのかよ！」
「仲間割れしてる場合じゃないド！」
言い合いは一体これで何度目だろうか。
私はその時ふと、目の前に映る風景が音もなく遠のいていくような感覚を覚えた。こう言うのも変だけど、幽体離脱して自分の姿を斜め上から見ている感じだった。
違うチーム、違う人間、違う考え方。他人同士が全てを分かり合うことは不可能だ。だけど分かり合おうと努力することは誰にでもできる。
「ふん、やっぱり僕らは分かり合えないってことだね」
だからガンマがそう言った瞬間、私の喉からは自分でも驚くくらいの低い声が出た。
「──いい加減にしなよ」
重い沈黙が降りた。数万人の観客の話し声が、帳のように降りてきた。
大声で叫ばなかったのは、叫ぶだけの体力がないからかもしれない。
全員の視線が集まる。驚愕、猜疑、不満──私はそれらのすべてを受け止めながら言葉を紡ぐ。
「あんたたちがお互いのことをどう思ってようが別にいい。でもこの試合に負けたら人類は滅びる。あんたらの大切な人……家族や友達がどうなってもいいっていうんなら後半戦、そのくだらないプライド持ったまま臨めばいいよ」
「へえ、情に訴えかけてるつもりですかあ？」
視線を向けると、ベータは眉間に皺を寄せて言葉を詰まらせる。今の私は一体どんな顔をしているのだろう。
「勝ちたいんでしょう、点を取りたいんでしょう。だったら本気のプレーを見せて」
説教を垂れる嫌な奴、と思われたかもしれない。しかしこの試合に勝てるというなら、そのくらいの汚れ役は喜んで引き受ける。
エルドラドのメンバーは互いに顔を見合わせていたが。
「ま、そんなに言うならね……」
ガンマが肩を竦めて言った。明らかに渋々といった様子だったけれど。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
