801 機械の身体 ページ44
我に返る。ゴールの方が騒がしい。
そちらを向いた私は息を呑んだ。ルジクが──立ち上がれないでいる。
ガンマが駆け寄って声をかけるも、ルジクの顔色は蒼白のまま。敵の強力なシュートを三度も食らったのだ、無事でないわけがない。
そして、ルジクは……このチーム唯一のGKは、担架で医務室へ運ばれていった。
私たちはその姿を、ただ目で追うことしかできない。
「キーパーがいなくなってしまったド……」
「どうするんすか、神童キャプテン……」
天城さんと狩屋の言葉に、神童は沈黙しか返すことができなかった。
私は自分の鳩尾のあたりに、ぐっと拳を押し付ける。
まとまらないメンバー、独断専行のザナーク、キーパーの負傷。一難去らないうちにまた一難──思わず考えることを放棄しそうになった、その時。
選手入場口が開き、そこから白い煙がもうもうと溢れだしてきた。
このタイミングで一体何なんだ……そう思いながら視線をやった私は、いや、私だけでなく全員が驚愕で硬直した。
機械的な足取りでフィールドに入ってきたその人──いや、『それ』は、呆ける私たちの前に立つと、白い歯を見せて笑った。
私の見間違いでなければ、目の前のこれは、恐らく中学時代の円堂監督を模したアンドロイドだった。
前半終了のホイッスルが鳴るまで、私たちはその場に立ち尽くして奇妙なロボットと向かい合っていた。
＊
サカマキ監督曰く、パーフェクト・カスケイド研究チームに円堂監督のデータを渡し、作らせたのだという。その名も『メカ円堂』。
ツッコミどころはいくつかあるが、とにかくこれでキーパーの心配をする必要はなくなった……と考えていいのだろう。
「A」
外に出てきたクロエに呼びかけられ、顔を上げる。
「ごめん。あの二人のシュート、止められなかった……もう後がないってわかってるのに」
クロエの顔は悔しさで歪んでいた。爪が白くなるほどの握り拳が、気持ちの強さを何よりも物語っている。
私は歩み寄って、その拳に手を重ねた。
「クロエは全力を出してくれた。でも二対一じゃ、どうしても力の差が出てくる。だったら後半戦は、相手にボールを触らせないようにすればいい」
視線がかち合う。決意の漲った青い瞳は、海のように澄み渡っていた。
「前に出るんだね」
クロエの言葉に頷く。フィールドを縦横無尽に動けるリベロとしての利点を、活かしきってみせる。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
