800 絶望の底 ページ43
「なぜだ……なぜ思うようにいかない？！」
震える手を見つめて、神童は絶望的な面持ちで呟く。
──雷門のやり方が通用しないことに打ちひしがれているのだ。しかし悲観しているような時間は、ない。
そしてそのこぼれ球を拾ったのはあろうことか、ザナークだった。
我に返った神童はその後を追いかける。
「ザナーク、強引に行くな！ いったん戻すんだ！」
「うるせえ！ 俺が決めてやる！」
「俺たちには連携が必要なんだ！ バラバラに戦ったら、ギルには――」
「どけ！！」
ザナークのチャージが神童を弾き飛ばす。
私はその場から動けなかった。正体の分からない、不可解な黒い感情が頭をもたげてくる。
無意識のうちに歯ぎしりをしていた。口内の傷が開き、じゅわっと血の味が広がった。
跳躍したザナークはシュート体勢に入る。しかしその進路を三人のDFが塞いだ。
「『ディザスターブレイク』──」
「必殺シュートは打たせない！」
ザナークは舌打ちをし、ノーマルシュートに切り替える。
それはDFたちを弾き飛ばした後、キーパーの腕の中に収まった。ただキーパーも余裕で止められたわけではなかったようだ。額に汗が滲んでいるのが見える。
──このチームで勝つことは叶わないのか。
キャプテンの神童だけに采配の責任を背負わせることなどできない。サッカーはチームスポーツ。全員が一丸となって戦わなければいけない、のに。
「カウンター！」
メイアの声に我に返る。ギルは正確にパスを繋いで切り込んできた。
相手選手がシュート。それを防いだのは天城さんだった。
「させないド！ 『アトランティスウォール』！」
見事ブロックすることに成功。
しかし、よりにもよって──ボールはメイアとギリスの元へ転がっていった。
「「『デッドフューチャー』！！」」
「これ以上決めさせるか！ 『キーパーコマンド07』！」
防戦するルジクだったが……シュートはその腹にめり込み、身体をゴールネットへ押し込んだ。
──三点目。決定的な得点だった。
モニターの表示を見た神童が、がくりと地面に膝をつける。暗い淵に引きずり込まれたような虚脱感が、その身体から滲み出ていた。
もう、後がないのに。ここからあと四点、巻き返さないといけない。勝つために私が……私たちがやるべきこととは、一体。
「──おい、どうしたド？」
「大丈夫かよ？！」
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
