798 活路をひらくため ページ41
そのザナークは、放ったシュートを相手キーパーに止められていた。
一体、どうすれば点を奪える？ せめてアルファ、ベータ、ガンマの三人だけでも指示通り動いてくれれば……。
「みんな、連携するんだ！ この試合、絶対勝たなくてはいけないんだ！！」
神童はこの日一番の大声で、チームのメンバーに呼びかけた。
その姿をすぐ隣で見ていた私は、小さな違和感を覚える。
──いつもの神童らしくない。
連携を取ることに気を取られて、自分を見失っているのだ。
天城さんもそのことに気づいたのか、思案気な視線を神童に送っていた。
私たちがサポートに回らないと。エルドラドメンバーの緩衝材となって、チームとしての機能を持ち直させるのだ。
しかしそれからもチームはばらばらのまま。
エイナムは逆サイドのガンマがフリーにもかかわらずアルファにボールを回そうとした。私はそこに走り込みパスをカット、ガンマへ回す。
「おい、何を……！」
「状況を見て、エイナム！ マークされてる選手にパスしても通らないって、わかるでしょう？！」
しかしガンマも私の咄嗟の行動に反応しきれず、相手にボールを奪われてしまった。百八十度方向転換して駆け戻る。
自分にパスするよう神童がオルカに呼びかけるも、オルカはその先のベータへ山なりのパス。
私は跳躍してそれをカット、神童へボールを渡した。
「ちょっと、何してくれてんの？！」
「中央の神童に繋いだ方が確実に攻撃の機会を作れる！ ベータだけがチームメイトじゃないんだよ、オルカ！」
しかしなかなかチャンスを切り拓くことはできず、プレーは途切れがちになる。
苛立ちのせいだろう、握りこぶしを自分の腿へ打ち付ける神童に、私は声をかけた。
「神童、落ち着いて。焦らずにいつもみたいにやろう」
「A……」
神童の表情は晴れない。私はその曇る瞳に頷きかけてから──それは自分自身の気合を入れ直すための仕草でもあった──走り出す。
相手選手へのセンタリングを防ぐべく、狩屋がマークに入った。
しかしそこにベータが強引に割って入り──狩屋を押しのけて競り合いを制した。
オルカの元に渡ったボールをベータが受け取ろうとした時。なんと今度は狩屋が割り込んでそれを奪ってしまった。
「狩屋、どういうつもりだ！」
神童の制止も振り切り、狩屋は顔に意地悪い笑みを浮かべながら駆けていく。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
