【イナクロ】君へ贈る旋律第十七楽章【神童拓人】 (ページ40)

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ギルのスローインから試合再開。

相手選手にボールが渡った次の瞬間──そいつの身体は吹き飛ばされた。猛然と走ってきたザナークが強引なタックルを食らわせたのだ。

……ここに来て動いたか。ボールを持ったザナークは、私たちに向かって大音声で叫ぶ。

「いいか、よく聞け！このチームが勝つための方法を教えてやる！」

フィールドの時間が束の間止まった。

勝つための、方法。背中をじっとりと汗が流れていく。嫌な予感しかしなかったし、実際その予感は大当たりした。

「それはなぁ──この俺様が一人で活躍することだ！だから動くな、俺一人いればいい！！」

踵を返し、敵陣へ上がっていく。

「ちょっと、ザナーク！」と反射的に呼びかけるも、当然無視。力があるのは認めるが、いくらなんでも十一人を相手に一人では戦えない──！

だがザナークは相手選手二人を一気に抜き去った。

しかし、次に待ち構えていたDF三人のマークがなかなか外れない。

そしてついに痺れを切らしたか……強引すぎる位置からシュートを放った。

エルドラドチーム02初めてのシュートは、ゴールを大きく逸れて明後日の方向へ飛んでいく。

それからもザナークは敵も味方もお構いなしに、フィールドを縦横無尽に駆け巡った。

「放っておいていいのですか？」

「無視しろ。関われば無駄に体力を消耗する」

胸中に焦りが滲んでいく。試合がめちゃくちゃに展開されてしまっては、まずい。

エイナムとアルファが会話を交わす横を、私は駆け出した。

無謀と言われても構わなかった。このままあいつを野放しにしていていい理由がない。

「こっちにボールを渡して！一人で突っ走って勝てる相手じゃない！」

「いいぜ──ほらよ！」

ザナークがにやりと笑った。そして次の瞬間には、目の前にボールがあった。

あっと思う間もなく、顔面の右半分に熱が走る。ザナークはあろうことか私を盾にしたワンツーリターンで、ギリスとメイアをかわしていった。

「Aっ！！」

「大丈夫かド？！」

絶叫に近い神童と天城さんの声が追いかけてきた。

右目がぴくぴくと痙攣している。衝撃で口の中が切れたのか、鉄の味が舌の上に広がった。

……なんて奴だ。勝つためにここまで手段を選ばないなんて。

「あいつ……！」

「天城さん、私は大丈夫ですから！」

眉間に青筋を浮かべて飛び出していこうとする天城さんの腕を引いて止める。ここで争っては元も子もない。