795 最悪の滑り出し ページ38
サッと頬が熱くなる。それは羞恥ではなく、多分怒りによるものだった。
ザナークの手を振り払う。その拍子に、隣に並んでいた神童に背中がぶつかってしまった。私たちのやり取りを見ていた神童は、私を庇うようにザナークの前に立った。
「だが試合では俺のやり方でやらせてもらう。異論は認めねえ」
ザナークは勝ち誇ったように言った。自分がいることで、エルドラドチームが勝利することを確信しているかのような顔だ。
「まじで大丈夫なのかよ……？」という狩屋の声が、列の後方から聞こえてきた。
＊
ラグナロク第二試合、エルドラドチーム02対チーム・ギル。
倉間とガリングをベンチに控え、私たちはポジションにつく。観客の熱狂的な声援がフィールドを押し包んだ。
──次へ繋げるためには、少なくとも引き分け以上の結果を出さないといけない。力を出し惜しみせず、全力で挑まねば。
行こう、クロエ。短くそう呼びかけると、心臓が大きく拍動した。
「みんな、俺の指示通りに動いてくれ！」
神童がみんなにそう呼びかけると同時、キックオフのホイッスルが鳴る。
早速神のタクトの采配が振るわれた。光の軌跡は、左への道筋を描いた……が。
「なに……？！ そっちは指示した方向じゃないぞ！」
「なぜこの僕が、君の命令を聞かなきゃいけないのかな！」
ボールを持って切り込んでいくガンマはそれを無視し、一直線に進んでいった。
──いきなりこの流れはまずい！ 軌道修正を……！
「この前はザナークに不意を突かれたが、あれは僕の実力ではない！ この試合で証明してみせよう！」
意気込むガンマの後ろから、ベータが追い付いた。
「まあ、ガンマったら粋がっちゃって──だがこの試合、点を決めるのは俺だ！ ボールを寄越せ！」
ガンマはベータに一瞥すらやらず、そのまま上がっていく。
全く連携の取れていない私たちを見て、メイアが笑みを漏らした。
「あはっ！ 所詮ただの人間なんて、こんなものよね！」
そして……軽々とガンマからボールを奪う。
ギリスとメイアのツートップが上がってくる。二人は目配せし、一気に切り込んできた。
「私たちがお手本を見せてあげるわ。行くわよ、ギリス」
「オーケー、メイア」
巧みなパス回しで、一気にベータ、アルファ、オルカ、神童──四人抜きを果たす。
寸分の狂いなく相手の足元に返している。お互いの動きを正確に把握していないとできない芸当だ。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
