789 交わる思惑 ページ32
「でもぶっちゃけ、Aも納得いってないんだろ？ だから昨日もあそこで机ぶっ叩いたんじゃねえのか」
倉間に水を向けられた私は、返答に窮する。正直そこにはあまり突っ込まれたくなかった。
確かに苛立ってはいた。しかし今になって冷静に考えてみると、エルドラドのあの三人が味方に付けば、これほど心強いこともないと思う。
三人の取り巻き──エイナムやオルカ、ルジクたちをまず説得するべきか？ いや、きっと話すら聞いてもらえないだろう……。
「あ、しんサマ帰ってきた」
茜の声に顔を上げる。見ればジャージ姿の神童が、こちらへ歩いてくるところだった。
私たちはその周りに集まる。
「どうだった？ 会議」
クロエが尋ねるも、神童はすぐには話そうとしなかった。何から話せばいいものか──そう言いたげな、複雑な表情をしている。
しかし一つずつ整理することにしたのだろう、一同の顔を見回しながら口を開く。
「そうだな、まずは……トウドウ議長とサカマキ監督曰く──
私たちは目を見開いた。いつの間にそんなものが開発されていたのか。
それはエルドラド科学開発研究所で作られたという。
「でもそれを、
私の呟きに全員の視線が集中する。
ワクチンを打つことは彼らを救うことになるが、あの強大な力を手放すという選択肢はきっとないのだろう。SARUもきっと寿命のことを分かったうえで、私たちに戦いを仕掛けてきた。
それは、自分たちの力をもってすれば寿命が短かろうが世界を制圧してしまえるという余裕の表れか。もしくは寿命が短いからこそ早急に自分たちの存在証明を成し遂げたいがゆえの行動か……。
「ああ。しかしどのみち、俺たちが勝てばいい話だ。そうすれば彼らを救える。そしてフェイも……」
神童はそのまま、フェイのことを話し始めた。
天馬から聞いた──そしてその天馬はSARUから真相を告げられたという──フェイの真実は、にわかには信じがたいものだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
