787 濁る瞳 ページ30
「どういうことだよ？ 向こうが差し向けたスパイだったっての？」
「やっぱり今度こそ、
それぞれの推測を口にする中、私は反射的に神童の顔を見た。そうすることで状況が好転するわけでもないのに。
神童も目に動揺を浮かべている。何か言葉を紡ごうとしているみたいだけど、台詞が上手く出てこないみたいだった。
──フェイ。
今まで一緒に旅をしてきたのも、サッカーをしたのも、戦ってきたのも、そしてビッグと交わした約束も……全て演技だったというのか。
いや、違う。違うと信じたい。あの透き通った瞳は、演技によるものなんかではない。
何か理由があるのだ。きっとまた私たちのところに戻ってきてくれる。今はそんな、根拠のない願望に縋り付くので精一杯だった。
結局、フェイは戻ってこないまま……チーム01は十人体制で後半戦に臨んだ。
しかし前半戦と同じように、ザンに弄ばれる。フェイの脱退に動揺しているのか、プレーも上手く繋がっていない。
そして、五点目が決まった。これは決定的な得点だ。
なんという強さ──みんなも気持ちで圧倒されているみたいだ。もちろん私だって……あのフィールドに選手として立っていたら、きっと今頃戦意を喪失してしまっていただろう。
と。そこで鬼道さんが一歩前に出て、剣城に呼びかけた。
「ハーフウェイラインを超えて、DFも敵陣地まで上げろ！」
その指示に、剣城だけでなく私たちも目を見開く。
総攻撃の体制に入るというのか。今の段階でのその策はあまりにもリスキーな気がするが。
「まさか全員攻撃を……？！ それは無謀です、逆に失点を重ねる可能性があります！」
「冷静に試合を見ろ。フェイがいない今、この試合は負けると見るべきだ。ならば次の勝利のための布石を打つ！ ここで決める一点の価値は、敵と俺たちとでは全く違う！ 俺たちが決めれば、エルドラドチーム全体のムードが変わる！」
──だからこそ、なんとしても一点を取りに行く。
鬼道さんの言いたいことを察した私は、ハッと息を呑んだ。一点を次に繋げる──そしてその『次』とはすなわち、私たちのことだ。
この試合では、悔しいがこちらの勝ち目はない。しかしだからこそ、次に控える私たちは絶対に負けるわけにはいかないのだ。
剣城は鬼道さんと二言三言会話をしてフィールドに戻っていった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
