781 黒い激情 ページ24
そこでアルファが立ち上がった。アルファは言い合う二人を視界に据え、淡々と述べる。
「これ以上ここに留まる意味がない。道を開けてくれるか」
「悪いねアルファ、僕が優先だ」
「NO」
「反抗的〜！ 気に入らなぁい」
「やれやれ。アルファにまで舐められるようでは、世も末だね……」
「うふふ、今貴方たちと決着をつけても構わないんですけど？」
三人の間に一触即発の空気が流れる。
私はアルファたちからゆっくりと視線を逸らした。視界が少しずつ狭まっていく感覚があるのは、たんに疲労のせいだけではないだろう。
「天城先輩、止めてくださいよ！」
「俺じゃなく、監督に言うド……！」
その瞬間──バン！ と、何かが破裂するような音が室内に響き渡る。
自分の右手がじんじんと痛んだことによって、それが私が平手で机を打った音だということに気が付いた。
視界がゆっくりと回復していき、私は我に返った。全員の視線がこちらに集中している。
「──おやおや、癇癪かな？ 怖いお嬢さんだ」
「今の行動は、私たちへの反抗とみなしても構わないか」
「イラついたからって物に当たるの、やめたほうがいいですよ！ カルシウム足りてないんじゃないですかあ？」
この時、何か一言でも言い返せればよかったのだろうか。
私は自分の、感情的な行動を呑み込むことができなくて、しどろもどろとするしかなかった。
「やめろ！ 俺たちはチーム……一緒に戦う仲間だ！」
神童の制止に、ベータは無邪気な子供のような笑みを漏らす。
「仲間？ あはははっ！ 笑っちゃいます！」
「同じエルドラドに所属していても、彼らとは競い合う敵……ライバルだ」
「ま、誰が一番かは明らかだけどね」
「……空気わるーい」と口にして歩き出したベータに続くように、エルドラドのメンバーは踵を返してミーティングルームから去っていく。
「なっ……どこへ行く！ 戻るんだ、みんな！」
神童がその背中に呼びかけるも、意味はなかった。
室内には雷門メンバーとマネージャーである茜、そしてサカマキ監督が残される。そしてその監督は、神童に視線を投げてこう言った。
「さあ、どうする？ チームのキャプテンは君だ」
神童はきつく拳を握り締めていたが、その問いにとうとう答えを返すことはできなかった。
そして私も……痺れたように痛む自分の右手を、無言で見つめるしかなかった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
