776 道はひとつ ページ19
「──上等だ、表出やがれこのクソ野郎！ 格の違いを徹底的に叩き込んでやる！！」
「ちょっと！」
私は慌てて、ベータをクロエから引き剥がそうとした。だけど胸倉を掴んだ腕はびくともしない。クロエは無表情で、ベータの視線を真っ向から受け止めている。
──クロエがこんな、挑発まがいのことを口にするのは初めてのことだ。私はそのことにも戸惑ったが、とにかくこんなところで乱闘を起こすわけにはいかない。
「おい、やめろ！」
ふと第三者の声が割って入った。神童だった。ベータの大声を聞いて駆けつけてきてくれたのだろう。
ベータはトイレの入り口に立つ神童を見、そして私とクロエに視線を移し……盛大にため息をついた。
「──はあ、白けました。行くわよオルカ」
二人が出ていくと、場には静寂が訪れた。
クロエは真顔で服の皺を直している。神童は、私たちの間にどんな会話が交わされていたのか聞かなかった。
私はベータとオルカの足音が完全に聞こえなくなったのを確認して、ぽつりと呟く。
「やっぱり、このチームで勝つっていうのは……」
顔を合わせるたびに嫌みが、敵意がむき出しになる。そんなメンバーと一つになって戦うというのは、やっぱり無謀に思えてしまう。
「俺たちの方も……とくに天城さんや倉間は、やっぱりこのチーム編成に納得がいっていない様子だった」
神童は床に目を落としながら、男子更衣室での一幕を語った。
エルドラドのメンバーがいるなら降りる──このチームにどんな意味がある──天城さんと倉間の思いと同じようなものは、私の中にも少なからずある。
「でも、できるできないじゃなくて、結局やらないといけないんだとは思う。じゃないと人類が──」
滅亡する。
クロエの言葉の先を心の中で補った私は、ごくりと唾を呑み込んだ。
人類滅亡など、それこそ漫画の中にしか出てこない言葉で……だからこそ、まだ実感を伴って呑み込めてはいない。しかしそれでも、私たちはサッカーを、全てを守らないといけない。
──他のみんなは、上手くやれているのだろうか。
私はキャプテンに任命された、天馬や剣城のことを思った。
＊
翌日。
回廊に集まった私たちは、昨日の練習での様子を簡単に報告し合った。
やっぱりどのチームも、完璧な連携には程遠い様子みたいだった。それでも内部の決裂具合は、私たちのチームが群を抜いているだろう。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
