773 噛み合わない歯車 ページ16
「私は道具じゃないから、エルドラドに何かを提供することはできない。正直自分がなんで人の肉体を得られたのかもよくわかってないし。だけどAの化身──相棒としてなら、存分に力を振るうよ」
ちょん、と肘で軽く小突かれる。私は隣にあるクロエの横顔を見た。
出会った時は──と言っても二か月も経っていないが──私の半分の身長もなくて、小さくて頼りなかったのに。
今は相棒として、背中を預けられる存在になっている。
二人なら──クロエがいれば、どんな困難も乗り越えられる。そんな確信があった。
監督は表情を変えずに頷いた。
「それでいい。頼んだぞ」
踵を返して立ち去っていくその姿を見送る。
サカマキ・トグロウ……あのパーフェクト・カスケイドを率いていたというから、監督としての技量は相当なものだろう。
一体、どんな采配が見られるのだろうか。
＊
「五分二十一秒の遅刻だ」
フィールドに着くなり、ぴしゃりとそう言われたものだから、私はたじろいでしまった。
この少年が、確かアルファ。顔を見るのは初めてだ。きちっとした性格のようだった。
「ごめん。サカマキ監督と話をしてて」
「ふん……練習が始まる前からこんなんじゃあ、先が思いやられますね──って、あら？」
と。ベータがクロエに視線を留めた。そうして無遠慮に近づいていき、頭の先からつま先までを舐めるように見る。
「まあ……この子、貴方の化身？ 宿主の後ろに隠れてぴーぴー泣いていた子供が、よくここまで大きくなりましたねえ」
クロエは反論こそしなかったものの、不快感と怒りをあらわにした。
その態度が気に入らなかったのだろう、ベータの眉間にもしわが寄る。二人の間には一触即発の雰囲気が流れ、散る火花が見えそうだった。
「──練習を始めるぞ」
神童の一言が、その場をうやむやにしてくれた。ベータは不機嫌そうに鼻を鳴らしてその場を去っていく。
彼らとの連携を図ることが本当にできるのか……ボールを蹴る前から不安になってきた。
＊
その嫌な予感は的中した。
ボールを持って切り込むガンマに、倉間が迫っていく。ガンマは余裕の表情でそれをかわした。
「ふん……そんな動きじゃ僕からボールは取れないよ」
続いてそこにベータが迫る。
「ガンマ、狩屋にパスだ！」
神童の指示が飛んだが……ガンマはそれを無視して駆けていく。
そうして隙を突かれ、ボールがベータの手に渡ってしまった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
