759 脈打つ心臓 ページ2
上空からのシュートは、相手DFの頭上を通り抜け、一直線にゴールへ迫る。
キーパーは一切顔色を変えることなく、腰を落として構えた。
「『キーパーコマンド16』」
しかし──防御が持ったのは一瞬だった。
シュートの勢いはとどまらず、キーパーを吹き飛ばしてゴールネットに突き刺さる。
1-2。銅鑼の音の余韻が消えても、周囲はしばらくしんと静まり返っていた。
やがて……兵士たちの地鳴りのような大きな歓声が、場を震わせた。
そうして初めて、私たちがこの土壇場で、合体技を完成させたのだということを理解した。
「やった……やったな、A！！」
神童に手を取られ、我に返る。
できた。やり遂げた。嬉しさと達成感が、津波のように押し寄せてくる。
「Aはもう、十分に力をつけていた。でもそれに自分で蓋をしてしまっていたんだ。今それを打ち破ることができたから──技が完成した。得点を奪えた！」
私は返事をする代わりに、手を強く握り返した。
やり遂げられたのはやっぱり、仲間がいたから。神童が鼓舞してくれたから。クロエが鎧となって私に力を貸してくれたから。
一人だったらきっと、うじうじ悩むばかりで何もできなかった。みんなが私の中に、折れない意志を芽吹かせてくれた。
「異常事態。データにない必殺技を確認。個人のポテンシャルも右肩上がりに上昇している──」
レイ・ルクの無感情な声に、顔を向ける。
アンドロイドの表情は変わらない。私は一歩前に出て、口を開く。
「私たちは、ずっと同じままじゃない。あんたが取り込んだデータより、何倍も何十倍も強くなってるの。今この瞬間だって、過去の自分を乗り越えて──大切なものを守るために戦ってるんだから」
雲が切れ、日の光がフィールドを照らし出す。太陽の温かな光が身体を包んだ。
右手で、左胸のエンブレムを掴む。そこに位置する心臓が、熱く強く脈打っている。
「私たちは負けない！ これから先、あんたたちが何度襲いかかってこようと、絶対に！！」
確かな信念があるから。努力に裏打ちされた力があるから。仲間が背中を支えてくれるから。
私はこれからも──歩いていける。
「今だっ！！」
ベンチからワンダバの大声が響いた。
その両手にはミキシマックスガン。マイナスの銃口が、立ち上がっていた日之芽さんへ。プラスの銃口が私に向けられる。
──その時が、来た。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
