758 二つの旋律 ページ1
パーフェクト・カスケイドからのスローインで試合再開。
相手FWが猛烈な勢いで、追加点を奪うべく迫ってくる。
私はその選手の動きに、全神経を集中させた。
──あの子を見返してやるって気持ちでプレーしたらいいんだよ。
ハーフタイムでのクロエの言葉がよみがえる。
そうだ、その通りにすればいい。
あの子の意見は正鵠を射ていたから……弱みをこの瞬間に全て、強みに変えてみせる。
ボールを奪う時には。
無闇に足を突き出すのではなく、正確に見定めて、ここぞという場所に仕掛けるのだ。
最適なタイミングは──今！
数瞬の後、私のつま先は的確にボールを捉えていた。
みんなの歓声が上がる。それに背を押されるようにしながら私は前線へ切り込んだ。
すかさず別の選手が抑え込みにかかる。
左側の防御が甘いのならば。
単純な話だ。左に重心を移しつつ、右もおろそかにならないようにすればいい。
──突破できた。相手選手を背後に残し、ぬかるんだ地面を駆ける。
ボールはいつでも自由にコントロールできる位置に置け。
トラップはボールを受け取るのではなく、身体で吸収することをイメージしろ。
一つの動作をしているときには常に一手先を見据えて、どう動くか考え続けろ。
チームの綻びなんて言わせない。みんなの心に灯をともす、炎になってやる。
「神童っ！！」
叫ぶように呼びかけながらパスを出す。
神童はそれだけで、私がやりたいことを察してくれた。
足を止めないまま、心臓が突き動かされるままに、私たちは同時に叫んだ。
「『悠久の覇王クロエ』！」
「『奏者マエストロ』！」
「「──《アームド》！！」」
顕現した二体の化身は光の束となって降り注ぐ。
その光の残滓を振り切るように駆け抜ければ、私たちの身体には鎧が纏われていた。
ボールが高く蹴り上げられる。
指揮棒を振るうように、五線譜を描くように──それぞれの右腕を同時に振るう。
七色の旋律がボールから、そして私たちの腕から巻き起こる。それは今までで一番鮮明に、音色さえも伴って目の前に現れた。
跳躍して足を振り下ろす。二人分のパワーが、ボールに叩き込まれる。
噛み合った歯車が猛烈な勢いで回転していく。私たちは喉が張り裂けんばかりに、その技名を──叫んだ。
「「『デュアルプレスティシモ』！！」」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 263人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月5日 21時
