詩篇14 かげぐち ページ39
その日の放課後も、いつものように閉館ギリギリまで、学校の図書館で時間を潰していた。
授業が終わってすぐに帰ると、スナックへ出勤前の母と顔を合わせてしまう。だからここで本を読む。おかげで知識だけはどんどんついていった。
太陽が西の空に半分以上隠れた頃、本の詰まった重いランドセルを背負って図書室を出る。
校門へ向かって歩き出したところで、私は宿題のプリントを机の中に忘れてしまったことに気が付いた。ファイルに入れて、そのまま置きっぱなしにしていた。
もう鍵は閉められてしまっただろうか。そう思いながらもダメもとで教室へ向かう。
夕日が金色の残光を差し込んできていた。
幸いなことに鍵は開いていた。
誰かが中にまだ残っているようだ。細く開けられた戸から、会話が漏れてくる。
「──てかさ、よくあんな陰気なヤツにずっとやさしくできるよね」
クラスメイトの女の子の声が聞こえた瞬間、私は戸にかけた手の動きを咄嗟に止めた。
これは……耳に入れてはいけない類の会話だ。誰に対してのものかわからないが、女子の陰口は恐ろしい。粘着質と表せばいいのだろうか、長く尾を引く不快感が付きまとうようだ。
聞かなかったことにして今日は帰ろう。宿題は明日、学校に早く登校して片付ければいい。
「だって先生から頼まれちゃったんだもん、Aをクラスになじめるようにしてあげてって。断れるわけないよね、私いい子なんだから」
だけど。
美穂ちゃんの言葉が、踵を返しかけた私の足を止めた。
身体の中心から痛みを伴う冷たさが広がっていく。脳みそがぐにゃりと捻じ曲げられたようだった。
──今のは美穂ちゃんの、声? いや、優しい美穂ちゃんがそんなことを口にするはずがない。でも、でも。口調は別人のように冷たかったけれど、紛れもなく美穂ちゃんの声で。
教室内には他に数人の女の子がいるようで、おかしそうに手を叩いて笑っている。
「でた、美穂の『いい子ムーブ』! ほんとここまで来たら尊敬するんだけど」
「美穂の素顔しったら、センコーたち気絶するんじゃない?」
「そんな大したことじゃないけどね。受験するから、担任からの評価あげときたいだけ。内申点かせぎにあの根暗ちゃんはいいカモだよ」
内申点。評価。根暗。カモ。
知らない世界に来てしまったのかと思った。Aとはつまり私のことで、根暗で、カモにされている?
口の中が渇く。視界が狭まっていく。
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キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます! その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです! (3月28日 23時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです!!主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます!!これからも頑張ってください! (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます!展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください! (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キメラ | 作成日時:2023年11月14日 21時