詩篇13 けんあく ページ38
『信じてくれるの？』
「うーん……正直びっくりしてるけど、Aちゃんの顔みてたら作り話って思えないもん」
ぽろりと、手からペンが零れ落ちる。
私は一人ではなかった。周りに目を向けることを忘れてしまっていた。こんな優しい友達がいてくれたというのに。
「これからどうすればいいのか、私もいっしょに考える。だからまた学校行こう？ Aちゃんがいないと、毎日楽しくないよ」
美穂ちゃんの笑顔は、冗談でなく天使のようだった。
悩みを打ち明けられる友が傍にいるというのは、私にとって何よりの支えになった。
私は大泣きしながら「ありがとう」と何度も口にした。感謝の言葉だけは声に出して伝えなければいけないと思った。
＊
私はその翌日からまた登校しだした。
相変わらず会話は極力しないように努めたけれど、美穂ちゃんが私を自然と輪の中に入れてくれたから、孤立することはなかった。
おかげで学校に行くのが楽しいと再び思えるようになった。私は貰ってばかりなのに、美穂ちゃんに何も返せないのが心苦しかった。
五年生に進級した頃、家の中に流れる雰囲気はいよいよ芳しくなくなった。
まず、母が職を失った。派遣社員として勤めている会社から契約を打ち切られたのだ。不景気と業績悪化ゆえの人員削減だという。
家計が火の車になってしまったことに、母は大きなストレスを抱えたことだろう。
どうにかスーパーのパートで働き口は確保したものの、それだけでは収入がままならなかったのか、夜の仕事──スナックにも勤め始めた。
朝はスーパーで働き、夕方に短い仮眠を取って、スナックに出勤していく。
家で会話するどころか、母の顔を見る機会も激減した。学校に通う私と生活リズムが違ったのだ。
テーブルの上に置かれた、晩御飯などの用件を伝える短い書置きだけが、母から私への数少ない言葉だった。
土日でたまに顔を合わせても、やつれた母が私に話しかけてくることはなかった。
あまりに顔色が悪い時なんかは心配して私から肩を叩いたけれど、
「二日酔いで頭が痛いの、寝かせてちょうだい」
ぼそぼそとそう言われただけだった。
そう言われた時は図書館で過ごした。平日もできるだけ母と顔を合わせないようにした。母は私の顔を見るだけで苛立つと思ったから。
母は変わってしまった。
カミカゼの映画を見に出かけたり、家で一緒に手芸をしたりした日々は、もう遠い過去のものになった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 33人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます！ その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです！ (3月28日 23時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです！！主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます！！これからも頑張ってください！ (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます！展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください！ (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月14日 21時
