詩篇12 おみまい ページ37
袋から学級通信を取り出し、その裏に急いで文字を書き殴る。
『お見舞いありがとう。せっかく来てくれたのに、何のお講いもできなくてごめん』
急ぎすぎて漢字を間違えてしまったけど、美穂ちゃんはそれをいちいち指摘するようなことはしなかった。
「もしかして、かぜで声が出なくなっちゃったの？」
大きな目がさらにまん丸くなる。
そういうことにできたらどれほどよかっただろう。だけどこの時の私は、限界の寸前まで来ていた。
──この能力と一生の付き合いになるのだということはわかった。だけど一人で抱えきれるかどうかはまた別の話だ。
「誰にも言ってはいけない」という母の忠告が耳に蘇るよりも先に、私はペンを走らせていた。
『今から言うこと、誰にも言わないって約束してくれる？』
美穂ちゃんなら大丈夫、信頼できる。私の話を面白おかしく吹聴するなんてことは絶対にしない。
……果たして、紙面をじっと見つめていた美穂ちゃんは。
「うん、約束する。クラスの誰にも、パパとママにも言わない。指切りしよっ」
優しい笑顔を向けて、小指を差し出してきた。
純真な優しさに、私は涙ぐんだ。そうして自分の震える小指を絡める。
──美穂ちゃんが友達でいてくれて、よかった。この時の私は心の底からそう思っていた。
私は能力に関する全てを、文字にして打ち明けた。
自分には物心ついたころから言霊の能力が備わっていること。
恐らくは一生、力に怯えながら生きていかなければいけないこと。
今引きこもっているのも、その能力が引き起こした出来事が原因であること。
最後の一文字を書き終わった私は、しばらく俯いたままでいた。
勢いで全て言ってしまったけれど、美穂ちゃん自身はこんな突拍子もない話を聞かされて、きっと困っているだろう。
そう思っていたのに。
ペンを握ったままの私の手に、美穂ちゃんの手が重ねられた。
ハッとなって顔を上げる。美穂ちゃんは先ほどと同様、穏やかな笑顔を浮かべていた。
「打ち明けるの、こわかったでしょう？ それなのに教えてくれてありがとう」
──お礼を言われたのは一体いつぶりだろう。
そのことに気が付いた時には、私の頬を涙が滑り落ちていた。
母からたびたび抑圧感のある言葉を投げかけられていたこともあり、張りつめていた糸が切れたのだ。
美穂ちゃんは私の涙を優しく指で拭ってくれた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 33人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます！ その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです！ (3月28日 23時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです！！主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます！！これからも頑張ってください！ (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます！展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください！ (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月14日 21時
