詩篇10 しっせき ページ35
母に強い力で左腕を引かれた。突き指した方の手だったから痛みが走ったけれど、母はそんなことにも気づかない様子で、私をその場から引き剥がすようにして歩いた。
やがて連れてこられたのは薄暗い路地裏。母は周囲に人がいないことを確認して、私の両肩を掴んで強く壁に押し付けた。
「──なんてことをしたの！」
低く抑えた声だったけど、余韻がビルの壁に反響して消えていった。
母の瞳には憤りと困惑と、そして大きな恐怖が渦巻いていた。
私が能力を行使したことに怒っているのだ。そう思った私は消え入りそうな声で「ごめんなさい」と頭を垂れたけれど、その謝罪は受け入れられなかった。
「自分が何をしたかわかっているの？ 今の不自然な光景を誰かに見られたらどう説明すればいいの？」
自転車が急に動きを止めて、乗っていた人が投げ出された。それだけだったら車両の故障と言い訳すればいいだろう。そう思ったけれどとても口にできる雰囲気ではなかった。
それでも私は力なく反論する。
「でも……あそこで力を使わなかったら、あの子がケガをしてた」
「そういう問題じゃないの！ あれが自転車じゃなくて車だったら？ 運転していた人は急に車を止められた衝撃で頭を打って死んでいたわよ！」
言われて初めて、私はあの状況がどれだけ奇跡的だったかを理解した。血の気が砂のように、ざっと音を立てて引いていった。
母の言うようにあれが車だったら。私が止まれと命じた瞬間に車体は止まり、ひしゃげ、運転手は最悪即死していた。
そうでなくても、投げ出された男性の着地先が植え込みではなくアスファルトだったら。頭を強く打ち付けていたら。
だけどあの時能力を行使しなければ、女の子が確実に大怪我を負っていた。
どうあがいても事故は免れなかった。何が正しくて間違っているのかわからなくなって、私は涙目になった。
母の目は血走っていた。まとめられた髪はぼさぼさで、私の知る優しい母の面影はどこにもなかった。どう見ても、子供を叱るという域を超えていた。
何故母がこんなにも私の能力に神経を尖らせるのか──その本当の意味を、私は次の瞬間に知った。
「いい？ 貴方のその力は、人を殺してしまえるの！ それどころか世界だって簡単に変えてしまえる！ それがどれほど罪深いことかわかっていないから、今みたいに力を使ってしまったんでしょう！」
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キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます！ その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです！ (3月28日 23時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです！！主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます！！これからも頑張ってください！ (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます！展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください！ (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月14日 21時
