詩篇09 すんぜん ページ34
だからといって美穂ちゃんが伸べてくれた手を跳ね除けたくはなかったから、私は能力に注意しつつ、学校生活を送った。
幸い周りから「もっと喋れ」と強く促されることはなかった。私は常に聞き役に接することで、集団に馴染むことができた。
＊
小学校四年生の、秋の日。
体育の時間で突き指をしてしまった私は、母と共に整形外科クリニックへ向かっていた。
道中の会話はない。この頃になると母は能力を恐れ、外では全くと言っていいほど私と言葉を交わさなくなっていた。
隣を歩く母の顔に目をやる。ストレスのせいか頬がこけたように見えた。私がそうさせてしまったのかと思うと、自責の念が起こった。
最後に母と笑顔で会話をしたのはいつのことだったろうか……そんなことを考えている時、向こうからよちよち歩きの女の子が一人で駆けてくるのが見えた。
そして、私たちから向かって右側の道路、坂道から──クロスバイクに乗った男性が猛スピードで下ってきている。
このままではぶつかる。男性側から見たら子供の姿が死角になっているどころか、あの速度ではブレーキをかけても間に合うかどうか。
母も気が付いたのか、足を止めて息を呑んだ。
だけどここから走って間に合う距離ではない。私たちは数秒後に起こる惨事を、指をくわえて見ていることしかできない。
だけど私は女の子が傷つく姿を見たくなかった。一瞬のうちに最悪の事態を想像してしまって、胃の底が冷えた。
だから男性の乗る自転車に視線を据えて、
「《止まって》！！」
叫んだ。
世界が一瞬止まって見えたのは、きっと錯覚だった。
自転車が女の子に接触する寸前、見えない壁にぶつかったかの如く、がくんと動きを止めた。
乗っていた男性は慣性の法則によって前方に投げ出される。幸いなことにその身体は低い植え込みの上に着地した。
女の子は突然の出来事に驚いて、大きな声で泣き出す。支えを失った自転車がその傍に倒れた。
すぐにその子の母親と思われる女性が駆け寄ってきて、我が子を抱きしめる。状況から察するに、目を離した隙に女の子が一人で行動してしまったものらしい。
周りにいた人たちが、何事かと集まってくる。交差点がちょっとした騒ぎになった。
だけど子供にも男性にも怪我がないとわかると、みんな安心した表情で立ち去っていった。
私も住民たち同様、胸を撫でおろす。
最悪の事態を免れてよかった。そう思った時だった。
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キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます！ その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです！ (3月28日 23時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです！！主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます！！これからも頑張ってください！ (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます！展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください！ (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月14日 21時
