Word.0054 能力 ページ4
眠りについたコトハを神八に託し、一行は診察室へ移動した。
椅子に腰掛けた翁は重いため息をつく。沈鬱な雰囲気が部屋を満たした。
「どうしちまったんだよ、コトハ……『殺してくれ』だなんて、あんな……」
戸惑いの拭いきれない表情でロックが零す。少女のあんな姿は初めて見た。声を限りにして叫ぶ姿は。
新年大会の終盤から様子はおかしかった。だけどコトハの身に何が起こっているのか、推察するには判断材料が少なすぎる。
「──ここまで来たら、もう隠しておくわけにはいかねえか」
翁が言った。その顔には疲労と苦慮が滲んでいる。
それに犬士郎が反応する。犬士郎は謹慎中のハジメに代わり、本日のみ十三舎を任されていた。
しかし5108番──あの少女に関してのことはほとんど伝えられていない。15番の一件といい、十三舎の囚人はどれほどの業を背負っているのか。
「先生はご存知なのですか、あの囚人の情報を」
「あいつのことを知ってるのは俺と飾と双六とうちの看守長、女子刑務所の看守長、あとは上層部の一部の人間だ。あいつの存在は今まで、徹底的に秘匿されてきた」
医務室のロビーではなく、密室である診察室へ移動したのは、このためだった。話が外部へ漏れ出ないように。
翁は犬士郎と三人の囚人、一人一人の目を順番に見つめた。そうしてゆっくりと口を開く。
「自分の口にしたことがほとんど全て現実になる──そんな能力をあいつが持ってるって言ったら、お前らは信じるか」
一同は眉を僅かにひそめる。その反応はおおよそ妥当なものだった。
──まるでおとぎ話だ。そんな魔法のような力を、あの少女が持っているというのか。
「最初にそれを聞いた時は俺も、馬鹿げた話だと思った。だが目の前で実際にそれを見せられちゃあ、信じないわけにはいかなかった」
翁はその時のことを語った。
机の上に置かれたリンゴ。少女がそれに向かって「《潰れろ》」と言えば、リンゴはひとりでにひしゃげた。
少女が、そばに居た看守に向かって「《座って》」と言えば、看守はキョトンとした表情のまま、その場に正座した。
物に対しても人に対しても、少女の『言葉』は効いた。言わばあらゆるものを自分の思うように操作する力──科学では証明しようのない特殊能力。
その時の……生気が抜け切った少女の表情が、翁の脳裏に今も張り付いている。
能力のせいで少女が今までどんな目に遭わされてきたのか、その顔を見れば何となくわかる気がした。
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キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます! その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです! (3月28日 23時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです!!主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます!!これからも頑張ってください! (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます!展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください! (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キメラ | 作成日時:2023年11月14日 21時