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詩篇05 きょうふ ページ30

母は冷蔵庫から半玉のかぼちゃを取り出した。まだ加工されていない状態のものだ。

まな板の上に置かれると、ごとん、という硬質な音がした。


「A、このかぼちゃに向かって『割れろ』って言ってみて」


この時の私はどうして母がこんなことをさせるのかわからなかったけど、今なら理解できる。

母は私に備わる能力を否定しようとしたのだ。種も仕掛けもない普通のかぼちゃなんて、包丁を使わない限り割れない。

ほら、言ったことが現実になるなんて、そんなことあるわけないのよ。そう笑って窘めたかっただろう。


「……《われろ》」


しかし私の能力は本物だった。

ぴしっ、と。かぼちゃに一直線の亀裂が入ったかと思うと、二つに分断された身が転がった。


私はかぼちゃに目をやったまま、しばらく口を開かなかった。沈黙の時間が流れる。

ほらできた、凄いでしょう、褒めて! と胸を張る気にはならなかった。とてもそんなことを言える雰囲気ではないことを肌で感じていた。

ゆっくりと背後に首を向ける。


母は数歩後ずさり、背中を冷蔵庫にぶつけた。その表情には紛れもない恐怖が張り付いていた。

母の頭の中は一瞬にして、目に映るものを否定する言葉で埋められていったことだろう。だけどひとりでに割られたかぼちゃが、紛れもない真実だった。


「……え? どうして? こんなこと、そんな……」


母しばらく自分の頭に手を当てて怯えるようにしていたが、己を無理やり奮い立たせるように持ち直し、私にこの力のことを事細かに聞いてきた。

いつから、どうやって、どんな時に能力を行使していたのか。私はそれらの質問の全てに答えた。どうしてこんなに母が混乱しているのか理解できなかったけれど、これ以上悲しませてはいけないと思った。


「この力のことは、誰にも言っちゃ駄目よ。絶対に秘密にしておくの」


母の鬼気迫る様相に圧されるようにして、私は頷く。きつく掴まれた両肩から震えが伝わってきた。こんな母の姿は初めて見た。尋常ではないとはまさにこのことを言うのだ。

力を母に見せる前は、こんなことになるとは思ってもいなかった。けどさすがの私も、この能力が祝福される類のものではないのだとわかった。


能力を秘匿するという母の判断は正しい。この力が世間に流布されたら、只事では済まない。

私は母の言いつけを守った。うまく言語化できない恐怖が這い寄ってきていた。

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キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます! その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです! (3月28日 23時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです!!主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます!!これからも頑張ってください! (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます!展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください! (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:キメラ | 作成日時:2023年11月14日 21時

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