詩篇01 しあわせ ページ26
私は日本の一般家庭に生まれた、ごく普通の子供だった。本名はAといった。
父親は私が生まれてすぐに事故で亡くなってしまったという。お母さんは女手一つで、私に愛情をたくさん注いで育ててくれた。
「かわいいA。貴方の幸せが、お母さんの幸せだからね。大好きだよ」
これが母の口癖だった。線の細い人だったけれど、内に秘める意志は透き通っていて、あたたかな情愛を持っていた。
私はそんな母が好きだった。親戚づきあいもなかったから、互いをたった一人の家族として、つつましくも楽しい生活を送っていた。
思い出せる限りの一番古い記憶は、三歳の頃。母の膝の上に乗った私は、
「ことだまってなあに？」
と聞いた。多分テレビか何かで耳にしたのだろう。耳慣れない単語の意味を尋ねた。
母は私の身体を抱いてゆらゆらと揺れながら、しばし宙に視線を彷徨わせる。そうしてにっこり笑顔でこう説明してくれた。
「昔はね、お母さんたちがこうしておしゃべりする言葉には、不思議な力が宿るって信じられていたの。いいことを口に出せばいいことがやってくる。悪いことを口に出せば悪いことが起こっちゃう、って」
当時の私は幼かったこともあり、わかったようなわからないような感覚だった。だけどその後、こう返したのを覚えている。
「そっかあ。だからおかあしゃんは、Aだいすきっていってくれるんだね」
母は笑みを深めて、私のことを抱きしめてくれた。
母の腕に抱かれると、いつもお日様の匂いがした。私も母に倣ってその日から、「お母さん大好き」と口にするようになった。
私はそれから間もなく幼稚園に入園した。
生まれて初めて社会に接した私は、父親がいないこと、そしてこの白髪が──髪色は母譲りだった──普通ではないことを知った。
同じ組の男子たちに心無いことを言われたし、保護者たちの間でも色々と噂されていたようだった。
傷つくこともあったけれど、私は特に塞ぎこまなかった。園での生活が楽しかったし、嫌がらせも耐えられないほどひどくはなかったからだ。
家に帰ってきてから、母に今日園であったことを話す時間が大好きだった。工作の時間に作った作品を見せたら母は手を叩いて喜んでくれた。
どこにでもいる微笑ましい母娘。
その睦まじい関係性に小さな亀裂を入れたのは──やはり、私の持つ能力だった。
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キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます！ その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです！ (3月28日 23時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです！！主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます！！これからも頑張ってください！ (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます！展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください！ (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月14日 21時
