Word.0074 前進 ページ24
ハジメはじっとスケッチブックの紙面に目を落とす。
そうして顔を上げ、瞳を真正面から見据えてきた。私はそれを受け止める。少しでも逸らしたら駄目だと思った。
「その言葉を忘れるなよ。途中で放り出そうもんなら容赦はしない──まあ南波にいる限り、逃げ出すなんて真似は死んでもさせねえがな」
告げられた短い言葉。
それは、だいぶ遠回しな言い方だったけれど……私は南波刑務所の囚人でいてもいいと、そういうことなのだろう。
ペンを握りしめた手に汗が滲んでいる。私はこの瞬間、多分生まれて初めて、人生の大きな選択をした。
＊
ひとまず私は今まで通り、十三舎十三房にいられることになった。
もし選択を違えたら、或いは覚悟が固まっていなかったら一年前の──女子刑務所での死人のような生活に逆戻りしたことだろう。
ハジメたちからしたら、私という存在は悩みの種でしかないはずだ。しかしだとしても、私はここでやり直すと決めた。色んな人に迷惑をかけながらだけど、一歩ずつでも進むのだ。
私の能力を解析するための実験は、翌週の頭から始まることになった。
どのような条件でどんな命令を下した時、能力が発現するのか……その全容を長期的に解明する。一年や二年じゃ終わらないだろう、というのが翁さんの見解だった。
どのみち、能力とは一生の付き合いになる。その辺は根気よくやっていくしかない。
そして実験が始まる前に、私にはやらなければいけないことがある。自分の過去をみんなに打ち明けるのだ。
自己満だと言われればそれまでだ。みんなに対して私の過去を話す理由はない。だけどどちらにせよ、けじめをつけるべきだと考えた。
昼食後の自由時間。雑誌を読んだりテレビを見たりと、それぞれのことをするみんなに向かって私は声をかけた。
「あの、ちょっとい、いい？」
こうして呼びかけひとつするのにも、まだ大きな勇気がいる段階だ。頑張って声で話せるようにしつつも、どうしても言葉が詰まってしまった時には筆談で話している。
みんなはすぐに手を止めて、私の周りに集まってきてくれた。
「なになにー？」
「どうしたんだ？」
問いかけてくる表情は穏やかだ。その明るさ、優しさに甘えてしまいそうになりつつも、私は意を決して口を開く。
「私が、今までどういう……人生を送って、こ、ここにやってきたのか、い今のうちに、話しておこうと思って」
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キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます！ その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです！ (3月28日 23時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです！！主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます！！これからも頑張ってください！ (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます！展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください！ (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年11月14日 21時
