Word.0053 錯乱 ページ3
初めに回復したのは聴覚だった。
機械的な電子音が、一定の間隔を置いて耳に届く。
それが心電図の発するものらしいと気がついたのは、目を開いて視界に入ってきたのが病室の真っ白な天井だったからだ。
ひどい倦怠感が身体にのしかかっている。霞のかかったようになった脳では、ものが上手く考えられない。
そこで扉の開く音がした。何人かが部屋に入ってくる。
「あ、コトハちゃん! よかった、気がついた……」
ウノとロックとニコが、不安半分、安堵半分といった表情でこちらを見つめてきた。私はゆっくりと瞬きをしてその顔を見つめ返す。
自分の置かれた状況がよくわからない。医務室のベッドで寝ているということだけは理解できたが。
ウノ、ロック、ニコ……いつものメンバーには、なぜかあと一人が欠けている。
「……ジューゴは?」
私の掠れた問いに、三人は顔を見合わせる。少しの間があった後に、ロックが口を開いた。
「まだ、眠ってる。ハジメに負わされた怪我が……」
全て言い終わらないうちに──新年大会の光景が、一挙に脳裏に甦ってきた。
紅蓮の炎。異形の姿。飛び散る血飛沫。地獄のようなあの一幕。
全てを思い出し、理解し、悟った。ただ一つの思いが私の胸中を満たした。
目を見開いたまま、唇を微かに動かす。
「──……て」
「え?」
ウノが顔を近づけてくる。私は勢いよく起き上がって、両手で思い切りその肩を掴んだ。
「私を殺してっ!!」
全て私がいるからいけなかった。ジューゴが怪我をしたのも、あの時私が『力』を使ってしまったから。
そうでなくとも私は死ぬべき人間なのだ。全て思い出した今ならわかる。私は生きていてはいけない。
しかしその瞬間、視界が回転する。何故か犬士郎が現れて、私の身体をベッドに押さえつけてきたのだ。
私はあらん限りの力を用いて抵抗し、喚いた。お願いだから今すぐ私を殺して、死刑にして、と。
だけど十代女子が、屈強な刑務官に適うはずもない。
「神八、鎮静剤だ!」
そうこうしているうちに翁さんの声がして、私の腕には注射針が刺さった。
三分としないうちに全身から力が抜ける。犬士郎が離れた時、私の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
泣きすぎて頭が痛い。疲れ切った私は再び眠りの坂を転げ落ちた。このままずっと目が覚めなければどんなにいいだろうと思いながら。
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キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます! その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです! (3月28日 23時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです!!主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます!!これからも頑張ってください! (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます!展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください! (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キメラ | 作成日時:2023年11月14日 21時