Word.0052 報復 ページ2
もしこの世界に神様がいるのだとしたら。
どうして私にこんな力を与えたのだと、その胸倉を掴んで問い詰めたい。
私の絶叫は──聞き届けられた。
間一髪で割り込んできたハジメが、刃を右手で受け止めていたのだ。
「ハ、ハジメ!」
「助かった……」
私はウノの腕の中から、ハジメの背中を見上げた。
そして、その一瞬の後。
剛腕が、深く深くジューゴの腹にめり込む。
骨の折れる音と筋肉のひしゃげる音が私たちの鼓膜を打った。
ジューゴの吐いた血が顔にかかっても、ハジメは顔色一つ変えない。
「なあハジメ……それはちょっとやりすぎ──」
「黙れ。囚人が勝手な行動を取るな。邪魔だ」
地面にうずくまったジューゴは数回えずいた後、ぴくりとも動かなくなった。
私は息をするのも忘れ、目を見開いてジューゴを見つめる。
「俺は自分の職務を完遂する。それ以外にお前らの相手をする理由はない」
視界が歪んだ。世界が崩れた。
これは……私がやった。私がジューゴに「やめて」と言ったから、こうなった。私が仕向けた。
お前のせい。お前さえいなければ。こっちに来ないで。
死神め。
いくつもの声が突き刺さる。
何も考えられない、考えたくない。また同じことの繰り返しになる。もう誰も死なせたくないのに。
──A。
ふと。誰かの手が伸べられた。
温かなそれは私の頬に触れた瞬間どろりと溶け、跡形もなくなった。
……おかあさん。
そうして、記憶の扉が全開になった。流れ出してきた奔流は、呆然とする私の思考をたちまちのうちに呑み込んだ。
耳障りな甲高い金属音がどこからかやってきて、鼓膜を打つ。
それは喉の奥から出る自分の長い悲鳴で、私は髪を振り乱しながら、目の前に横たわる現実を拒絶した。
肺の中の空気がなくなった時、私の意識は途切れた。私に呼びかけてくるウノとロックの声も、数秒後には聞こえなくなった。
闇の中では、蘇った記憶の残滓が、絶えず私のことを苛んできた。
私の中の能力が、かつての友人が、そして母親が。くっきりと輪郭を結んだひとつひとつの過去が、私に今までの報いを与えるかのようだった。
気が狂いそうになりながらも、私はそれを甘んじて受けることにした。そうして次に目覚めたらすっぱりと、自分の命を絶つことを決意した。
そうすることでしか、私の犯した罪は償えないのだから。
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キメラ(プロフ) - きえさん» コメントありがとうございます! その言葉が何よりの励みになります😭しばらくはゆっくりの更新になってしまうのですが、見守っていただければ嬉しいです! (3月28日 23時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
きえ(プロフ) - 話の設定が最高で続きが待ち遠しいです!!主人公がこれからどうなってくるのか考えるだけでワクワクしてます!!これからも頑張ってください! (3月28日 20時) (レス) @page37 id: 3e2dfb3761 (このIDを非表示/違反報告)
キメラ(プロフ) - よいよいの宵さんさん» コメントありがとうございます!展開楽しんでいただけるようでとても嬉しいです😭どうぞお付き合いいただけたらと思います🫶 (12月2日 21時) (レス) id: ac6bc7be2b (このIDを非表示/違反報告)
よいよいの宵さん(プロフ) - 久々にナンバカが見たくなり探したところ主様の作品を見つけました。とても面白く、夢主ちゃんの秘密が徐々に明かされていくのがとてもドキドキします。これからも頑張ってください! (12月2日 20時) (レス) id: ab89395776 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キメラ | 作成日時:2023年11月14日 21時